日本も本格的な物価上昇時代に突入しつつあるようだ。先日発表された、2022年10月の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は、前年同月比+3.6%を記録。消費税の導入時と増税時、また、バブル景気のピーク時を上回る、40年8か月ぶりの大幅上昇となった。
海外では、米国を筆頭にインフレが深刻化し、すでに金利が大幅に上昇している。それに引きずられるように、日本の金利も長期金利を中心に徐々に上昇しつつある。こうした状況下、国内の地価あるいは住宅価格は、どのような値動きをしていくのか。今後の住まい選びの参考にすべく、住宅価格に影響を与えそうな様々なデータを基に検証をする。
物価上昇の影響はまだ住宅市場には波及せず
まず、地価および住宅価格の現状をチェックしておこう。9月に国土交通省が発表した、2022年の「基準地価」(7月1日時点)は大きな注目を集めた。住宅地の全国平均が、1991年のバブル期以来、31年ぶりに前年比で上昇したからだ。こう聞くと、住宅地の地価に物価上昇の影響が出たと思わせるが、上昇幅はわずか0.1%に過ぎない。2020年が▲0.7%、2021年が▲0.5%と、いずれもコロナ禍の影響を受けて大幅なマイナスが続いた反動、という側面は否定できないだろう。
では、マンション市場はどうか。不動産経済研究所が発表した、2022年度上半期(2022年4月~9月)の「首都圏新築マンション市場動向」によると、首都圏の平均価格は6333万円で前年比▲5.5%、平米単価は95.9万円で前年比▲6.1%と、いずれも下落している。販売状況を示す契約率は67.7%と、価格下落にもかかわらず、好不調の目安となる70%を下回っている。但し、物価上昇の要因となっている為替市場での円安の影響で、建築資材や設備機器の価格は上昇しており、今後、マンションの価格に反映されてくる可能性はある。
長期的な需給動向は不動産価格の下落要因
景気の先行きを予測するのは困難だが、ある程度の想定が可能で、不動産価格に対して確実に影響する要因がある。それは需給動向だ。
日本の少子高齢化については、以前から大きな社会的問題となっているが、足元では、従来の想定以上のペースで少子化が進んでいる。厚生労働省が発表した2021年の「人口動態統計」(確定数)によると、2021年の出生数は約81万人となった。前年比で約3万人減少しているので、2022年の出生数は80万人を割り込む可能性が高い。
一方、政府予測のベースとなっている、国立社会保障・人口問題研究所が公表している「日本の将来推計人口」の2017年の推計では、出生数が80万人割れとなるのは2033年とされていた。つまり、政府予測よりも10年以上早いスピードで、日本の少子化は進行していることになる。この“想定外”の少子化ペースは、年金財政も圧迫しており、「100年安心」と言われていた年金制度の変革も待ったなしの状況だ。
少子化の進行は人口減少につながるだけでなく、世帯を構成する家族の人数が減ることも意味する。国立社会保障・人口問題研究所は、「日本の世帯数の将来推計」も公表しており、直近の2019年推計では、単身者世帯の割合は2040年には全体の4割に達するとしている。ファミリータイプのマンション市場には、影響が出てくるだろう。
また、総務省の直近の「住宅・土地統計調査」(2018年)では、全国の空き家の総数は848万戸となっている。全国の住宅の総数に占める割合は13.6%であり、7~8戸に1戸は空き家という状態だ。
2015年には、「空家等対策の推進に関する特別措置法」が成立しており、自治体は、適切に管理されていない空き家を「特定空家」に指定できる。そして、「特定空家」に対しては、行政代執行によって撤去が可能となった。行政代執行される件数が増加すれば、将来的に、戸建ての住宅市場の供給増につながることになる。
「所有者不明の土地」の面積は九州より広い?
最近では、所有者が不明になっている土地の問題も指摘されている。そもそも不動産の所有者が記載されている登記簿への登記は任意となっている。そのため、利用価値が低いと考えられる、親から相続した空き地や遊休農地、森林などは、登記がされないケースもあるようだ。
国土交通省が設置した、所有者不明土地問題研究会の報告書によると、2016年度の地籍調査において、所有者の所在が不明な土地は全国の20.1%に相当する約410万ヘクタールあるという。この面積は、九州本島の約367万ヘクタールよりも広い。しかも、今後、不動産の相続の増加が見込まれることから、2040年には720ヘクタールに達する可能性があるという。北海道本島の約780万ヘクタールに匹敵する面積だ。
こうした所有者不明土地の経済的損失は、2040年までの累計で約6兆円と試算されている。この問題に対処するために、すでに制度の見直しや新たな制度の創設が検討されている。具体的には、相続登記の義務化や、公共的事業のために一定期間の利用を可能とする制度の創設、さらに、民間による都市開発などが円滑に行える制度など。こうした制度が実現すれば、不動産市場全体の需給は緩和することになるだろう。
「住宅を買い時だと思う」人は過去7年間で最低
住宅購入を考えている人の意識も変化しつつある。公益社団法人・全国宅地建物取引業協会連合会が毎年実施している「不動産の日アンケート」(住居の居住志向及び購買等に関する意識調査/2022年2月発表)によると、不動産について「買い時だと思う」人の割合は10.5%に留まり、比較可能な過去7年間で最低水準となっている。「買い時だと思わない」人の割合は25.6%で(残りは「分からない」という回答)、その理由のトップは、「不動産価値(価格)が下落しそうだから」というものだ。
2023年には、現在の日銀総裁の任期が切れ、新総裁に交代する見込み。それに伴い、現状の「ゼロ金利政策」は修正され、住宅ローン金利が上昇する懸念が浮上している。景気が良好な時期なら、金利上昇前の住宅購入を検討する人も出てくると思われるが、物価上昇の影響で、実質賃金は直近データの2022年10月まで、7か月連続の前年比マイナスとなっている(厚生労働省「毎月勤労統計調査」より)。特に10月は前年比▲2.6%と、7年4か月ぶりの大幅な下落を記録した。家計の購買力が低下する中、ローン金利の上昇は、住宅購入層の意欲をいちだんと冷え込ませる要因となる可能性が強い。住宅市場にはマイナスに作用することになるだろう。
「UR賃貸住宅」が支持される理由
こうしたデータから、将来的に住宅価格が下落する可能性もある中、現在のような物価上昇期に価格が高止まりしているマイホームの購入は、お得な選択ではないかもしれない。その一方で、良質な賃貸住宅に住むことは、家計防衛のための有力な選択肢となるだろう。そこでひとつの候補となるのが、独立行政法人都市再生機構(UR都市機構/以下UR)が管理するUR賃貸住宅である。
まず、注目すべきはコストの低さ。一般的な賃貸住宅は、毎月の家賃と管理費・共益費以外に、入居時は敷金と礼金、不動産会社への仲介手数料、保証料などがかかる。しかし、UR賃貸住宅では、家賃と共益費、敷金以外は不要。しかも、通常なら2年に1回支払わなければならない更新料も不要なので、長期間にわたって住むほど、コストは割安になる。また、家賃500円ごとに共通ポイント『Ponta(ポンタ)』が1ポイント貯まるサービスもある(子育て中の人方には子どもの誕生日に追加でポイントがもらえるサービスも)。
物価上昇で家計の負担は、日を追うごとに重くなっている。固定費である住居費を削減して貯蓄に回せば、マイホーム購入のマネープランも立てやすくなるだろう。
家族構成やライフスタイルに合った特典、割引制度が用意されている点も魅力だ。「子育て割」は、家賃の20%(上限2万5000円)を補助してくれる制度。対象となるのは、「結婚5年以内の新婚世帯」あるいは「18 歳未満の子どもがいる子育て世帯」で、新婚世帯は最大3年間、子育て世帯は最大6年間のサポートが受けられる。新婚世帯から子育て世帯に切り替わった場合は、最大9年間まで延長される。
「そのママ割」は、3年間の定期借家契約にして、家賃を3年間お得にする制度。対象となるのは、満18歳未満の子どもを扶養する世帯。妊娠中、および、同居するのが孫や甥、姪などであっても18歳未満なら対象に含まれる。UR賃貸住宅は、物件の申込みから各種特典、割引制度に関して、基本的に抽選ではなく先着順の受付なので、該当する人は、まずはUR賃貸のサイトで対象物件の検索をしてみるとよいだろう。
また、単身者向けの「ハウスシェアリング制度」もある。単身者同士で同居ができる制度で、友人や恋人との同居も可能。新規にUR賃貸住宅を契約する個人が対象で、居住する人全員が契約名義人となる。
UR賃貸住宅に関して、「都内の中心部から離れた団地」というイメージを持っている人も多いかもしれない。実際、都内中心部の物件は数が限られる。だが、郊外でも、駅近で都心へのアクセスがしやすく、通勤可能な物件は多い。そもそも、リモートワークが定着しつつある今、立地が都心中心部から離れていることはメリットと捉えることもできる。
通常、郊外の物件は、都心の物件よりも家賃はリーズナブルで、間取りは広くなる。URの物件は、一般的な都心の賃貸住宅よりも広いケースが多く、リモートワーク用のスペースを確保しやすい。しかも、物件のほとんどがRC造やSRC造で建築されているので、耐震性や防音性に優れている。敷地内に公園が整備されている物件も多く、緑も豊か。子育て世代にとって助かるだけでなく、リモートワークの気分転換にも役立つだろう。
加えて、URには、部屋をフレキシブルにDIYすることができる「UR-DIY」(原状回復義務も免除)という物件もある。子ども部屋やリモートワーク用のスペースを、使いやすいようにDIYすることが可能だ。間取りや水回りをリノベーションした物件や、駅近の都市型タワーマンション物件もあり、実際に見学してみると、従来型の団地のイメージとは大きく異なることに気付くはず。
賃貸であっても妥協することなく、快適な住みやすさを追求したいという人にとって、UR賃貸住宅は、まず検討したい住まいのひとつといえるだろう。