世界経済の物価高の波が日本にも押し寄せ、値上げラッシュが続いている。2022年12月の消費者物価指数は、前年同月比+4.0%となり、第2次オイルショック下の1981年12月の+4.0%を超える、41年ぶりの上昇率を記録した。
帝国データバンクの調査によると、2022年に値上げした食品は2万0822品目に達し、今年4月までに値上げが予定されるのは7152品目に上るという。その中には、“再値上げ”や“再々値上げ”となる食品も多い。もはや、商品やサービスの値上げは日常風景になりつつある。では、「良い値上げ」と「悪い値上げ」の違いはどこにあるのか──。
「実質値上げ」が“炎上”するケースとは
まず、重要なポイントとなるのが、「値上げが消費者にスムーズに受け入れられるかどうか」だ。値上げのやり方によっては“炎上”するケースも少なくない。その代表例が「ステルス値上げ」だ。
実際、大手コンビニの弁当の中身が大きく減っていたことがSNSで指摘され、そのコンビニに対するユーザーの苦情がネット上にあふれかえることもある。値段を変えずに内容量を減らしたのは実質的な値上げなのに、何の告知もなくこっそり行われていた、というわけである。
ここでポイントとなるのは、「事前告知がなかった」という部分。値段を据え置いて内容量を減らすという「実質値上げ」は、食品だけでなく、日用品など様々な商品で行なわれている。そして、実質値上げをしても消費者が許容しているものを見ると、メーカー側がきちんと事前告知をしているケースが多い。
一方、反感を買っているのは、事前告知なしのステルス型。前述したコンビニ弁当の苦情コメントをみると、「潔くない」「ズルい」「騙された」といったネガティブな感情を消費者が持ったことがわかる。ユーザーの中には、「値上げが必要なご時世なのはみんな分かっている。だから正々堂々と値上げして欲しい」という感覚もあるのだろう。
経験や勘に頼る部分が大きかったこれまでの価格設定
ただし、正々堂々と値上げをしてユーザーに受け入れられたからといって、はたしてそれが企業側にとって“良い値上げ”といえるのかどうかは別問題だろう。おそらく、企業が値上げを検討するのは、現在のように、原材料費や製造コストといった原価率が上昇し、利益の減少に直面している場合が多い。したがって、値上げとなる価格は、原価率の上昇分に見合った金額に落ち着きやすい。それなら、競合他社との競争でも大きな不利にはならず、ユーザーも離れないだろう、というわけだ。
だが、そもそも、そうした価格設定のやり方は正しいのか。企業の価格戦略をコンサルティングするプライシングスタジオの高橋嘉尋社長は、「今までの多くの価格設定事例を見る限り、経験や勘に頼る部分が大きかったといえます」と指摘する。一般的なパターンは、商品やサービスの原価に、競合他社の価格を参考にしつつ利益を上乗せする、という方法だった。それに対して、企業が本来すべき価格設定とは、「顧客が商品やサービスに感じている価値を価格に反映することです」(高橋氏)と話す。
消費者の意識を測定して価格に反映させる
では、実際に、「顧客が感じている価値を価格に反映する」にはどうしたらいいのだろうか。プライシングスタジオは、バリューベース・プライシングという考え方で「価格のコンサルティング」サービスを提供している。
バリューベース・プライシングとは、競合製品と差別化された「価値」に対する、顧客の支払い意欲(willingness to pay)をもとに価格を設定する方法だ。具体的には、顧客への定性・定量それぞれのインタビューや、A/Bテストを用いて算出する。バリューベース・プライシングは、その名の通り、自社製品の「価値」に基づき価格を検討するため、コストや競合など外部要因に依存することなく価格を変更できるようになる。
バリューベース・プライシング最大のメリットは「単価を上げやすい」点だ。競合製品と差別化された「価値」に対し価格設定を行うため、原材料や競合価格が一定でも、顧客の支払い意欲が現在価格より高い場合や、それを向上させる施策を打つことで合理的な値上げが可能になるという。
企業が成長するための価格設定を目指す
プライシングスタジオは、2019年の創業ながら、すでに約50社、100を超えるサービスの価格戦略コンサルティングを手掛けている。昨今の物価上昇局面で、競合のない同社のサービスは、企業はもとより、新聞やテレビなどマスメディアからも大きな注目を集めている。
高橋社長は、「値上げに後ろめたさを感じている企業はいまだに多い。しかし、上昇分のコストを商品価格に転嫁するだけでは、企業も成長することができず、従業員も幸せになれません。自社の商品やサービスについて、価値に見合った適切な価格設定をすることが、今後、ますます重要になるでしょう」と語る。
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