なかでも注視すべきはTPPへの対応だ。
今世紀初頭、著名投資家のジム・ロジャーズ氏は3つの予言をした。(1)金の上昇、(2)中国の時代到来、(3)ドルとアメリカの凋落―の3つだったが、(1)と(2)は見事に的中したものの、今のところ(3)は外れている。
ロジャーズ氏だけでなく、多くの専門家がアメリカの凋落を懸念していたことは事実だが、それでも世界のリーダーであり続けられたのは、強大な経済力や軍事力だけでなく、100年近くにわたって世界の多国間協力、多国間秩序を作り、育て、守ってきたからだ。
IMF(国際通貨基金)や世界銀行、WTO(世界貿易機関)などが代表例だが、そのアメリカが保護主義に転じて他国との関わりを拒否し、同じ秩序を重んじてきた同盟国を敵視することになれば、これは小さくないレジーム・チェンジ(体制変換)になる。
しかし、だからこそトランプ政権は簡単には自由貿易に背を向けられないはずだ。同氏を支持した白人ブルーカラー層は、外国製品が入ってくるからアメリカ製品が売れないとか、中国人が安い賃金でアメリカ人の仕事を奪っているといった単純な説明を信じて投票したかもしれない。
だが、トランプ氏自身は国際的にビジネスを展開してきた人物だけに、本気でそんな前世紀の経済学を信じているわけではないだろう。
私が注目しているのは、トランプ氏がどんな経済ブレーン、経済政策チームを任命するかだ。人選には共和党も深く関与してくるはずなので、そうそう無鉄砲な人事も政策もできはしない。
結論からいうと、紆余曲折はあるかもしれないが、自由貿易体制は守られると思う。それがアメリカ経済発展の道であるし、それによって日本とともに世界経済の中心として投資マネーを集めることができるからだ。