「永守さんが私のいた部署を視察することになり、事前に秘書室から注意事項を告げられました。そのなかで驚いたのが、『ブラインドの角度を斜めにしてはいけない』です。永守さんを見下していることになり失礼だというのです」(同前)
日本電産社内の不文律は他にもある。例えば、永守氏への挨拶で「お疲れさまです」は厳禁。元日以外は休まないと公言する疲れ知らずの永守氏に失礼だからだという。代わりに「ご苦労さまです」と声がけするそうだ。
「休みたい奴は辞めろ」
日本電産では全役員や統括部長らが出席する経営会議が月に2回開かれる。永守氏にそれぞれの事業本部が目標の達成状況を報告するが、業績の思わしくない事業本部の幹部は永守氏から厳しく叱責される。
「特にターゲットになっていたのが車載事業本部です。日産や三菱自動車から移ってきた人たちが多かったのですが、期待した通りの業績をあげられないと、『日産や三菱自動車のような3T企業の感性を早く捨てろ!』と怒鳴るのです」(同前)
3T企業とは、「低成長、低収益、低株価」の企業を指す。車載事業はガソリン車からEVへの世界的なシフトが進むなかで大きく成長が見込まれる分野であるが、中国メーカーとの競争が激しく業績は思うように伸びない。
テコ入れのために2020年にそれまで日産のナンバー3だった関潤氏を社長に招いて車載事業本部の責任者とした。だが、原料高や生産拠点である中国のロックダウンの影響などで低迷が続いた。
永守氏は経営会議の場ばかりか、幹部らへの一斉メールで関氏をはじめとする車載事業本部の幹部らを激しく詰めた。A氏の手もとに残るその一部にはこうある。
〈48年前に自宅で日本電産を創業して、死ぬ想いでここまで持ってきた日本電産を君達のような腐り切った人間に潰されてたまるか! 自動車業界からやってきた社長が、AMEC事業(※編集部注:車載事業)をもっともっと良くしてくれるだろうと期待してきたのに、全く逆にどんどん事業が悪化してきて、遂に名ばかり社長のもとで更に倒産への道を歩み出しているのをみて、怒り狂うどころか悲しくて涙が出て止まらない〉
なお、永守氏の要求への回答は「実現を目指します」や「頑張ります」ではダメなのだという。
「模範解答は『死ぬ気で実現します』です。『死ぬ』というワードが入ると永守さんは喜ぶ」(同前)