朝日新聞が4月5日付朝刊の1面で、「読者のみなさまへ 購読料改定のお願い」と題する社告を出した。朝夕刊セットで月額4400円(税込)の購読料を5月1日から4900円に引き上げるという。10%超の値上げ幅となる。社告では理由をこう説明した。
〈新聞用紙など原材料が高騰し、みなさまにお届けする経費も増加しています。コスト削減を続けていますが、報道の質を維持し、新聞を安定発行するため、ご負担をお願いせざるをえなくなりました〉
このライバル紙の苦渋の決断を予見したかのような社告が、読売新聞の3月25日付朝刊1面に掲載されていた。「本紙は値上げしません 少なくとも1年間」との見出しで、こう宣言した。
〈日本社会は、急激な物価上昇という厳しい状況に直面しています。4月以降も飲食料品などのさらなる値上げが予定され、対象は電気代など社会インフラにも及ぶ見通しです。物価高騰が家計を圧迫する中で、読者の皆さまに正確な情報を伝え、信頼に応える新聞の使命を全うしていくため、読売新聞社は少なくとも向こう1年間、朝夕刊セットの月ぎめ購読料4400円、朝刊1部売り150円、夕刊1部売り50円(いずれも消費税込み)を値上げしないことに決定しました〉
さらに2面では、「読者に奉仕 戸別配達網を堅持」という見出しで、〈購読料を値上げすることは物価高騰に苦しむ国民から新聞を遠ざけることにつながりかねません。読売新聞社は購読料を据え置き、物価高騰に伴う負担は新聞販売店に転嫁しないで戸別配達網を堅持していきます〉と高らかに告げる。
朝日から読者を奪うチャンスと捉えたか
まるでその後の朝日の値上げ発表を見越したかのような書きぶりだったが、どのような思惑があったのか。業界関係者はこう分析する。
「読売があえて値上げしないことを宣言し、それを1面に持ってきたのは、朝日が近々値上げ発表をすることを想定していたからでしょう。読売も朝日同様、物価高の煽りを受けて経営は苦しいはずですが、ここは踏ん張りどころ、むしろ朝日から読者を奪うチャンスと捉え、紙面でも大々的にアピールしたのではないでしょうか」
読売の「値上げしません」宣言に「少なくとも1年間」の但し書きがついているところから、“この1年が勝負どころ”と考えている節も伝わってくる。
両社に、値上げの有無について1面で伝えた理由、双方の判断についての見解を尋ねると、下記の回答があった。
「読者のご理解をいただけるよう、1面社告や特設面でお知らせしました。他社の告知については、申し上げることはありません」(朝日新聞社広報部)
「購読料を値上げしないことをお知らせした理由は、2023 年3月25日付本紙朝刊の1 面および2 面に掲載した社告でご説明した通りです」(読売新聞グループ本社広報部)
新聞という巨大メディアが、岐路に立たされようとしている。(了)