「廊下の電気が消えた」「上の階がうるさい」「怪しげな人が出入りしている」──マンション管理員の元には、あらゆる難題が昼夜を問わずふりかかる。だが、管理員に与えられている権限は「ほぼ皆無」。権限を持つには国家資格の管理業務主任者(管業)が必要になる。
「管理組合と管理業務委託契約を結ぶ際に重要事項を説明したり、管理事後報告を行う際に必要な資格で、管理会社の営業マンがその資格を持っていることが多いです。管理員は資格がなくてもできますが、住人からは“専門家じゃないんだから”“ただの雇われでしょ”と言われてしまう。“窓口”に過ぎない悲しさを味わってきました」
こう話す南野苑生さん(75才)は広告代理店勤務を経て独立したものの、バブル崩壊や阪神・淡路大震災の影響で仕事が激減。本人いわく「ホームレス寸前」になった59才のときに、夫婦で住み込みの管理員になった。
管理員として悔しい思いをしてきて3年目。「資格があれば……」と愚痴をこぼしたとき、妻がこう言ったという。
「じゃあ、その試験受けてみたら? あなたが受験しないなら、私が取る」
妻に発破をかけられ、資格の取得を決意したものの、準備期間3か月で迎えた最初の試験は不合格。南野さんは当時を思い出し、苦笑する。
「妻が住人の皆さんに私が管業を受験すると話していたので、“次はがんばって”と声をかけられて……。外堀を埋められ、腹をくくるしかなかった」(南野さん・以下同)
それから1年間は猛勉強。参考書を10冊近く買い、ネットから過去問を数年分プリントアウトして何度も解いた。
「毎晩、還暦を過ぎた頭に鞭打って参考書や過去問に向き合いましたが、建築物や施設の各部の名称と役割、法律の解釈などを覚えるのは苦労しましたね。試験の2か月後、ネットでの合格発表で自分の受験番号と名前を見つけたときはホッとしました」
住人からは紅白セットのワインやビール、ウイスキー、すき焼き用の肉など、多くのお祝いが届いたという。
「資格取得以降、理事会の進行がスムーズになりましたし、何より住人からの信用が厚くなりましたね。住人から頼られる存在になったのはうれしく、働きがいがあります」
※女性セブン2023年10月5日号