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作家・森村誠一さん、晩年の老人性うつ病・認知症との闘い 妻・千鶴子さんは「それでも主人は幸せだったと思います」

忙しい合間をぬって国内旅行したことも(右から森村誠一さんと妻・千鶴子さん)

忙しい合間をぬって国内旅行したことも(右から森村誠一さんと妻・千鶴子さん。写真=本人提供)

 今年7月に90才でこの世を去った作家・森村誠一さん。代表作『人間の証明』をはじめとして社会派ミステリーを次々と世に送り出したほか、歴史小説やドキュメントなど幅広いジャンルで半世紀以上活躍し続けた国民的大ベストセラー作家である。そんな森村さんを最も近くで見守り、併走し続けてきた妻・千鶴子さん(86才)が、長く濃厚だった90年の軌跡を辿る。【前後編の後編。前編から読む

主人公の名前をチラシの裏に書く

 著作は文庫化されたものだけでも400冊を超え、ピーク時は毎月500~600枚の原稿を書き続けた森村さんの人生は「言葉」と共にあった。

 しかし晩年、それを奪われる悲劇に直面する。2015年に老人性うつ病が判明したのだ。

「主人の症状の特徴は、話したそばから言葉を忘れてしまうことでした。自分の頭をゲンコツで叩いている姿を見たこともあって、もちろん本人も苦しいのでしょうが見ている私も何もできないことが本当につらかったです。そのうち自分の小説の主人公の名前や、主治医の先生が教えてくれたうつにいいという成分『セロトニン』など、頭に浮かぶ言葉を思いついたそばからチラシの裏やメモ用紙に書き出して、ところ構わず家中に貼るようになりました。

 言葉を忘れていくのが恐ろしかったのだと思います」(千鶴子さん・以下同)

 一時期は食事がとれなくなったことで体重が30kg台になったものの、流動食を導入したことで食欲が戻り、うつ状態から少しずつ回復を見せていた矢先、さらなる悲劇が森村さんを襲った。

「うつと入れ替わるように認知症の傾向が見られるようになったんです。うつは治る病気だと思っていたけれど、認知症はそうじゃないという絶望感がありました。最初にお医者さまにお話を聞いたときはグサッと胸が突かれる思いでしたね。

 主人も認めたくなかったと思います。散歩をしながらテープレコーダーを回したり写真を撮ったり、脳に刺激を与えようと懸命でしたし、認知症に罹患したという人を見つけては熱心に話を聞いていました」

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