かつてはタブー視されていた離婚も、いまでは“門出”として祝福を受けることすらあるようだ。とはいえ、長く連れ添った相手であればあるほど、離婚という選択に伴う重みは増していく。考えに考え、悩んだ末に答えを出し、新たな一歩を踏み出した女性たちはいま、何を思うのか。熟年離婚のリアルに迫った。
「元夫との別れに向けて動き始めたのは、ちょうど昨年のいま頃でした。年末になって役所が混まないうちに、そして何より私の決心が鈍らないうちにと急ぎ足で離婚届をもらいに行ったことを覚えています」
今年3月に24年間連れ添った夫と離婚したAさん(61才)は、噛みしめるようにそう振り返る。
新年度や新学期が始まる直前にあたる3月は、一年で最も離婚件数が多いとされる。Aさんも次男が大学を卒業し、社会人として独り立ちするタイミングで自分も心機一転、新しい生活を始めたかったのだという。
「引っ越したり財産分与の手続きをしたりする手間や時間から逆算すると、11月から動いておく必要があると思って。
65才になる元夫とは、もしいまも結婚していたならば銀婚式を迎える予定だったのですが、とにかく思いやりがない人だった。決定的な決め手があったわけではないですが、毎日の少しずつの積み重ねがある日あふれてしまったような感覚です。深酒をすると口調が乱暴になり、モノにあたったりするのも嫌で、離婚を考えたことは一度や二度じゃありませんでした」(Aさん・以下同)
なかなか踏み切れなかったのは、勤め先の上司の紹介によるお見合い結婚で子供も2人いたから。親として、妻として結婚生活を続ける以外の選択肢が現実的ではなかったこともある。
「だけど下の子の就職先が決まって、夫も昨年、会社を定年退職したら、なんだか人生にも区切りをつけたいと思ったんです。夫は最初こそ『厄介払いするつもりか!』と抵抗しましたが、財産分与をすると言ったらおとなしくなりました。土地やお金が目当てだったのだと思うとやるせない気持ちですが、ひとりになってからは、25年ぶりに穏やかな日々が訪れました。夫の機嫌をとらなくてもいい、不機嫌そうな顔を見なくてもいいというだけで本当に気分が晴れ晴れとしているんです」
現代において、長く連れ添った相手であったとしてもパートナーシップを解消して新たな道を歩もうとする女性は決して少数派ではない。もう一度「おひとりさま」に戻った彼女たちの決意に耳を傾けたい。