「定年消滅」「人生100年時代」と言われて久しい。多様化する定年後の働き方や、好景気に伴う賃金上昇の行方に注目が集まるなかで、「年齢バイアスのない職場づくり」のビジョンで労働環境の改革に挑むのが、求人情報サイト「バイトル」などを運営するディップ株式会社の冨田英揮・代表取締役社長兼CEO(57)だ。ドジャースの大谷翔平選手が12月にブランドアンバサダーに就任したことでも話題を集める同社が見据える、日本社会の「働き方」の未来とは。【前後編の前編】
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少子高齢化が加速する日本はいま、深刻な労働力不足に直面しています。人手不足の飲食店などでは、営業時間の短縮や閉店に追い込まれる事例もあるほど切実な状況です。
この課題を解消するために、私たちディップは、採用する企業側に「年齢バイアスのない職場づくり」を働きかけています。分かりやすく言えば、70代と20代がともに働ける社会の実現を目指す取り組みです。
〈そう語るのは、ディップ株式会社の冨田英揮・社長だ。1997年設立の同社は、総合求人サイト「はたらこねっと」を皮切りに、日本最大級の求人情報サイト「バイトル」などの人材サービスを提供。人材を募集する企業や派遣会社などと、働き手をつなぐ「人材サービス事業」を手がける〉
私たちのお客さまである企業からは「若い人を雇いたい」といった声も聞かれますが、当社では「年齢にこだわっていては採用機会を失います」とご説明してきました。
その一環として、2023年2月からは、「バイトル」や「はたらこねっと」などの求人情報サイトにおいて、応募時の年齢入力を求人企業が「任意」か「必須」かを選択できるようにしました。その取り組みから1年弱ですが、年齢入力を「任意」にした求人件数は40万件を突破するまでに増えました。企業側に「年齢バイアスのない職場づくり」をご理解いただけた結果だと思います。
中高年世代の方のなかには、若い世代と働くことに抵抗感を持つ人もいるかもしれません。しかし、実際には元気に働けるようになって、「若い人と働くことで自分も若返る」といった声をよく耳にします。やはり年齢を重ねても「自分が必要とされている」「社会貢献ができている」と感じられることは生きがいにつながります。
日本は世界一の長寿国と言われますが、単に長生きできるだけでなく、健康なうちはいつまでも働ける社会が理想です。働いて身体を動かし、コミュニケーションをとることで孤独感もなくなります。そうした先に、労働力不足の解消が実現できると考えています。