公表が最後となった2005年の日本の長者番付で一介のサラリーマンにも関わらず1位にランキングされたのが「タワー投資顧問運用部長」の清原達郎氏だった。その後20年で実に個人資産800億円超、投資顧問会社でヘッジファンドを運用し、通算9300%という驚異の実績をあげ「伝説のトレーダー」と呼ばれたが、2023年にファンドを閉じ、引退した。その投資哲学、ノウハウを余すことなく明かした書『わが投資術 市場は誰に微笑むか』(講談社)より、清原氏が40年のキャリアから見た「割安株投資」の本質について解説する。
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結論を申し上げれば、「もし割安株を買って儲からないなら、そもそも割安の定義が間違っていた」ということです。逆に(正確には対偶命題で)言うと、「【1】割安株に投資すると儲かります」。もちろんすぐ儲かるかどうかはわかりませんが。
低PERの株を買っても2年目から赤字が続けば株価は上がらないどころか下がるでしょう。この会社は今の業績を基に計算すると低PERではあるけれども「割安」ではなかった、ということになります。
ただし、低PERの株は将来の業績予想をするとき、別に増益になる必要がないのです。業績横ばいでも株価が上がる可能性は十分あります。なぜなら、過大な固定資産投資をしなければネットキャッシュが毎年大きく積み上がってくるからです。ネットキャッシュ比率が1を超えてくるとさすがに投資家の目に留まります。自社株買いや増配を求める声も大きくなってくるでしょう。
ネットキャッシュ比率が1以上の銘柄が300社もあるのは、割安銘柄が割安なまま放置された結果だとも言えます。しかし、割安なまま放置されている間、どんどんネットキャッシュが溜まっていくわけです。ある意味ネットキャッシュ比率が1以上というのは「矛盾」です。株価が上がらないまま、何年もたつとネットキャッシュがさらに溜まってこの「矛盾」が一段と大きくなってきます。
ネットキャッシュ比率が1でPERが7倍の株なら、配当を払わなければ7年でネットキャッシュ比率が2になりさらに矛盾が大きくなります。だから、正しい「割安」の定義は、「【2】割安な株の株価が上がらず割安に放置されたままだと時間の経過とともに矛盾がさらに大きくなる」ということかもしれません。そして、その矛盾は無限に大きくなることはなくどこかで解消されていくということなら【1】と【2】の命題は一致します。
もちろん儲けを全部配当で払えばネットキャッシュは積み上がりません。でも、PER7倍の株が儲けを全部配当で払えば、配当利回りは14.3%ですよ。それで株価が上がらないわけはないでしょう。