日経平均株価がついに先日、「バブル超え」となる史上最高値を更新した。新NISA(少額投資非課税制度)もあって投資ブームの様相がある一方、「バブルが弾けたら損になるのでは」と二の足を踏む人も多い。この状況下でどのような判断が必要なのか。2006年に刊行した著書『臆病者のための株入門』がベストセラーとなり、その後も金融・人生設計に関する著書が数多くある作家・橘玲氏が指南する。【全3回の第1回】
最高値を更新しても高揚感がまったくない
日経平均株価が1989年末につけた史上最高値を34年ぶりに更新、その後も日本市場は株高に沸いている。背景にはAI(人工知能)ブームと米国株の上昇、そして円安がある。海外の投資家からすれば、日本企業の株がドル建てでは割安に放置されているように見えるため、買われて当然なのかもしれない。
その勢いから「日経平均は4万円を大きく超えて5万円も」との予想まであるが、私は懐疑的だ。
株価は長期的には企業の業績が反映されるが、この先、日本企業は株主を満足させられるだけの利益を生み出せるだろうか。円安は輸出関連企業の追い風にはなっても、国内で稼ぐ企業にとっては逆風だ。少子高齢化で縮小が続く国内市場に成長が期待できるのかという問題もある。
そもそも、34年間も最高値を更新できなかったことが異常であり、時価総額で見ても、日本企業の凋落は一目瞭然だ。34年前の世界の時価総額ランキングのトップ10には、NTTをはじめ日本企業が7社もランクインしていたが、今や見る影もなく、日本企業トップのトヨタ自動車でさえ30位以内にも入っていない。
熊本県に半導体世界大手の台湾メーカー・TSMCの工場が開設されることが新聞の一面に載るというのも、日本企業の海外進出が当たり前だった1980年代では考えられない話だ。日本の経済構造が、かつてのアジアの新興国のようになっていることの証ではないか。
日本の労働生産性は主要国(G7)で最下位で、さまざまな国際調査で、「日本人は世界でいちばん仕事が嫌いで会社を憎んでいる」ことが明らかになっている。さらにコロナ禍と資源価格の高騰で物価が上がりはじめたことで、実質賃金は21か月連続でマイナスになっている。デフレから「脱却」したことで、日本人はどんどん貧乏になっているのだ。株価が史上最高値を更新してもバブル期のような高揚感がまったくないのも当然だろう。