需要不足なのか、供給過剰なのか──。中国経済は現在、需給バランスが崩れているように見える。GDPデフレーターをみると、2023年4-6月期から2024年1-3月期までマイナスが続いている。生産者物価指数は4月現在、19か月連続でマイナスを記録する(ただし、消費者物価指数はこの3か月間プラスを維持)など、いわばデフレ状態なのだが、値上げを敢行する業界が出てきており、中国本土のネット空間では大きな話題となっている。
業界トップ企業・康師傅(カンシーフー)はメーデー休暇明け後、即席麺の小売り希望価格を引き上げると卸売り先に伝えた。中新経緯は5月16日、康師傅北京公司の従業員に確認した話として報道している。それによれば、カップ麺(主力商品である紅焼牛肉麺など)の小売り希望価格は1食4.5元(98円、1元=21.7円、1円以下は四捨五入、以下同様)から5元(109円)、袋入り麺については一袋2.8元(61円)から3元(65円)に引き上げられる。
中国国家統計局によれば4月の失業率は、30~59歳で4.0%、25~29歳が7.1%であるのに対して、16~24歳は14.7%だ(すべての年代で在学生を含まない)。16~24歳(在学生を含まない)の失業率統計が発表されるようになったのは2023年12月からだが、それ以降最も高かったのは2024年2月、3月の15.3%であり、それらと比べると4月は少し下がってはいるが、それでもほかの世代と比べると随分と高い。
低価格で食事を済ますことができる即席麺の主要購買層は、学生や若年労働者たちだ。彼らにとって即席麺は重要な食糧であり、その価格上昇は死活問題なのではなかろうか。数量に関する統計を調べてみると、2023年1~11月における中国即席麺の販売額は全体では2.4%減、実店舗ルートは0.7%減、オンラインは17.5%減であった(ACニールセン)。
有力企業がひしめく即席麺市場の過当競争
長引く不動産不況によって親の仕送りが途絶えた学生が増えたり、建設工事の減少などから仕事がなくなった若年労働者が増えたりしたことから、彼らが即席麺ですら節約し始めているのだろうか。だとしたら、価格上昇は感受性の高い学生や、血気盛んな若年労働者の不満を募らせ、社会を不安定にさせかねない。
しかし、どうも、実際にはそんなことはないようだ。
まず、即席麺市場の現状だが、康師傅、統一企業、今麦郎食品、日清食品、白象食品など、多くの有力企業がひしめく、競争の厳しい市場だ。メディアを通じた宣伝広告が多く、一見華やかな業界のように見えるかもしれないが、実際は1990年代以降、長年にわたり過当競争が続いており、需要の新規開拓が難しい成熟した市場でもある。
数字で確認しておくと、業界トップの康師傅について、2023年12月期における売上高は全体では2.2%増えているが、即席麺分野は2.8%減っている。ここ数年は新型コロナ禍やそれに対する厳しいゼロコロナ政策による特需に沸いたが、それが剥がれ落ちている。だから、不況が理由で需要が低下しているということではなさそうだ。
メーカーサイドでは、今回の値上げ理由として材料費の上昇などを挙げているが、一方で戦略的に高付加価値製品へのシフトを進めている。今の学生や若者たちの中には、習慣として頻繁に外食したり、オンラインによる出前食を取ったりする者が多い。また、健康志向の高まりによって、塩分が強すぎて、栄養に偏りのある食品を避ける学生、若者が増えている。