岸田内閣が支持されない原因は裏金問題や経済政策だけではない。根本的な理由はこの政権が「日本が直面する問題から目を背け続けている」ことにある。その象徴が「少子化対策」だ。ベストセラーシリーズ『未来の年表』の著者で、新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』を上梓するジャーナリストの河合雅司氏が、「嘘と間違いだらけの人口減少対策」を喝破する。
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「若年人口が急激に減少する2030年代に入るまでが、少子化トレンドを反転できるラストチャンス」との岸田文雄首相の言葉も虚しく、2023年の日本人の年間出生数は過去最低の72万7277人(概数)を記録した。
速報値を見る限り、2024年は70万人を割り込みそうである。岸田首相の認識が間違っていると言わざるを得ない。
日本人の出生数が100万人台を記録したのは2015年が最後だ。わずか8年で27.7%も減少した理由は、出産期の女性が激減したからである。近年出産した日本人女性の約9割が25~39歳だが、2015年と2023年を比較するとその世代は約14%減った。
未婚率の上昇や子供をもたない人の増加といった要因もあるにせよ、そもそも「母親になる女性人口」の不足が出生数減に拍車をかけているのだ。
今後、「母親不足」はより深刻化していく。2023年の25~39歳の女性と、25年後(2048年)にこの年齢に達する0~14歳を比較すると、後者が26%も少ない。短期間にここまで減れば、子育て支援策を強化したところで出生数減は止められない。
しかしながら、政府は出生数減の要因をいまだ非婚や晩婚、子供をもたないという価値観の広がりに押しつけている。「母親不足」が主要因であると認めてしまうと、子育て支援策の効果の乏しさをも認めることになり、それでは予算を確保できなくなるからである。
子育て支援に限らず、政策効果が疑わしい人口減少対策は少なくない。外国人労働者の受け入れ拡大もその1つだ。人手不足に悩む経済界の強い要望もあって政府は取り組みを強化しているが、日本人の減り幅が大き過ぎて追いつかない。すでに20~64歳の日本人は毎年70万人近いペースで減っている。これを補う規模の労働者を日本のみに送り出せる国などない。
しかも、これまで労働者を送り出してきた国の経済発展は目覚ましく、母国や近隣諸国に仕事が創出されている。わざわざ遠い日本まで働きに出る必要性が薄れているのである。他国も外国人労働者の受け入れを拡大しており、円安にあえぐ日本が競り負ける場面は少なくない。