相続税対策の基本は生前のうちにできるだけ資産を圧縮することだ。なかでも王道なのが「暦年贈与」。子や孫にお金を贈与しても年間110万円までなら非課税となり、毎年暦年贈与をすることで相続財産を前もって非課税で渡すことになる。しかしここにもしくじりポイントがある。2年前に父親を亡くした60代男性N氏が語る。
「父は110万円までなら非課税になると、私と弟の口座に毎年50万円ずつ貯めていました。ところが父の死後、相続税の申告の際に、税務調査で贈与ではなく名義預金だと指摘されてしまったのです」
名義預金とは、口座の名義人と実際にお金を口座に入れた人が異なる預金のこと。父親がN氏に贈与した預金はすべて相続財産に戻されてしまい、課税の対象にされたという。相続専門税理士の相原仲一郎氏が語る。
「税務署は被相続人の預金口座の動きを追跡して見ています。その際、子供の通帳に貯めていたお金は『名義預金』とみなされ、ただ別名義の口座に預金を移しただけと指摘される可能性があるのです」
こうした事態を防ぐために欠かせないのが、「贈与契約書の作成」だ。贈与の成立にはお互いの合意が必要で、贈与契約書に「いつ」「誰が」「誰に」「何を」「どのように」贈与したかを明確に記す。そのうえで贈与者と受贈者がそれぞれ保管しておくことが望ましい。
「受贈者が小さい孫の場合は合意を得ることが難しいので、代わりに親権者との間で贈与契約を結びます。そのほか、教育のための資金を1500万円まで非課税で贈与できる『教育資金の贈与の特例』を使う選択肢もあります。ただし、こちらは信託銀行などの口座を作って契約と管理をするため余計に手間がかかる。
生前贈与に力を入れるあまり、老後資金を目減りさせていくのは考えもの。どこまで贈与するか、親子で事前にしっかり話し合うことが大切です」(相原氏)
相続で失敗した体験者たちの教訓を胸に、同じ轍を踏まないように気を付けたい。