人生の最期を平穏に過ごすため、快適な状態で「そのとき」を迎えるため、体が動く元気なうちから最適な場所を探すという人は少なくない。俳優の北大路欣也(81才)や加山雄三(87才)、女性学研究者の田嶋陽子さん(83才)など「現役」で施設に入居している著名人も増えている。一方で、超高級老人ホームに入居したからといって、幸せな終の棲家となるかどうかはわからない。その実例をもとに注意すべきポイントを探ってみよう。【終の棲家の落とし穴・前後編の前編】
民間の老人ホームは、値段こそ張るがそれ相応の手厚いサービスが受けられるとして人気があり、100人単位の「ウエイティングリスト」を持つ施設もざらだが、そこには影もある。
2年前、夫とふたりで都内の老人ホームに入居したAさん(72才)はため息をつく。
「同年代の友人も何人か夫婦でホームに入って悠々自適に暮らしているので、私たち夫婦も夫の退職金と老後資産としてコツコツ貯めてきた定期預金を解約したうえ、一軒家を売り払って資金を用意し、完全個室でレストランつき、体が悪くなっても介護してもらえる施設を選んで入居したんです。
自分で料理や掃除をする必要がなく、丁寧に対応してくれるスタッフばかりで最初はすごく居心地がよかったけれど、3か月経った頃からここで暮らすのが苦痛になってきて……。確かに食事は出てくるけれど、その都度お金がかかるうえ、ほかの入居者もいるから食堂にパジャマにすっぴんで行くというわけにはいかない。
スタッフは入れ替わりが激しくて忙しいからか、入居者の情報が引き継がれていなかったりする。私は甲殻類アレルギーで食べると体調が悪くなるのですが、忘れられてえびやかにを使ったメニューが出てきたことは一度ではありません。いまは健康だからいいけれど、この環境で介護が始まったら……と思うと不安な気持ちになります。だけどもう、私たちにはここ以外、帰る場所はありません」