10月1日、高齢者の新型コロナワクチン定期接種が始まった。そのなかで日本が世界に先駆けて承認した「レプリコンワクチン」をめぐって様々な議論が巻き起こっている。製造・販売を担う製薬会社は不安や疑問にどう答えるか。【前後編の前編】
学術団体が緊急声明
〈ご注意ください/新型コロナウイルス感染症に対する次世代mRNAワクチン(レプリコンワクチン)に対して、ソーシャルメディアなどで科学的根拠のない話やデマの投稿が相次いでいます〉
高齢者向けの新型コロナワクチンの定期接種開始の約半月後、10月16日付の朝刊各紙に掲載された全面広告の文言だ。
広告主はMeiji Seikaファルマ(以下、Meiji)。レプリコンワクチン(商品名:コスタイベ)をめぐる論争の過熱を受け、同ワクチンの製造・販売を手がける同社は情報発信に注力し始めた。
2025年3月までの定期接種では、ファイザー、モデルナのほか、第一三共、武田薬品工業と、新たに加わったMeiji製が使われる。5製品とも現在主流のオミクロン株に効果が見込めるとされる。
なかでもMeijiのレプリコンワクチンは新しいタイプの製品だ。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師が言う。
「細胞内でスパイクタンパク質を産生して抗体を作るメカニズムは従来のmRNAワクチンと同じです。レプリコンはそれに加えて体内でmRNAが自然に複製されて増殖し、より多くの抗体ができる。そのため接種量は従来よりも少なくて済み、抗体価がより長く持続するといわれています」
そうした特性から、「抗体価が保てるのは3か月程度」とされる従来のワクチンよりも「1年に1回」の定期接種に向いていると期待する声もある。
今年度の定期接種で供給予定の3224万回分のうち、約8割は従来のmRNAワクチン(2527万回分)が占め、レプリコンワクチンは1割強(427万回分)だが、それが“大炎上”した。
理由のひとつは昨年11月に世界初の承認を取得したレプリコンワクチンを製造・販売できるのが、今のところ「日本国内」に限られることだ。有効性や安全性の検証が不十分ではないかとの批判が殺到する事態になった。
8月7日には、日本看護倫理学会が緊急声明を出し、レプリコンワクチンの〈安全性および倫理性に関する懸念〉を表明した。同学会は2008年に設立された学術団体だ。
声明では〈人間の遺伝情報や遺伝機構に及ぼす影響、とくに後世への影響についての懸念〉や〈接種者から非接種者に感染(シェディング)するのではないかとの懸念〉があるとし、〈拙速にレプリコンワクチンを導入することには深刻な懸念を表明します〉と結んだ。
さらにMeijiの社員だと称する匿名グループが書いた書籍『私たちは売りたくない!』(9月18日発売)が異例の売れ行きを記録するなど世の中は大きく揺れた。
「生物兵器まがい」?
加えてレプリコンワクチンを批判し続けたのが、立憲民主党の原口一博衆院議員だ。自身のSNSや動画投稿サイトなどを通じて「生物兵器まがい」などと断じる投稿を繰り返し、“反ワクチン”の姿勢を鮮明にしている。
Meijiは原口氏の主張を誹謗中傷だとして10月初旬に警告書を送付したが主張は変わらず、Meijiは10月末、名誉毀損での「提訴を検討している」と発表。一連の騒動について、前出・上医師はこう語る。
「過激な言葉で不安につけ込む発信に対しては冷静に向き合う必要があります。ただし、接種データが積み上がっている従来のワクチンに比べて、レプリコンは経過観察のデータがない。初めての接種に不安を覚えるのは仕方がない面もある」
レプリコンワクチンに対する不安の声に対して、Meijiはどう答えるのか。取材を申し込むと、広報担当者らが対面で応じた。現在、具体的に訴訟の準備はなされているのかという問いには、「時期は未定ですが、原口一博代議士に対して名誉毀損で提訴する準備を進めています」と応じた。
(後編に続く)
※週刊ポスト2024年11月22日号