株式市場の乱高下を受けて、アベノミクスの効果を疑問視する声も聞かれ始めたが、はたしてアベノミクスの効果とはなんなのか。かつて米証券会社ソロモン・ブラザーズの高収益部門の一員として巨額の報酬を得た後に退社した、赤城盾氏が解説する。
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昨年末の選挙前から自民党の圧勝を織り込んで始まっていた円安と株高は、5月半ばまでは材料出尽くしによる調整が囁かれながらも止まることなく進行し、文字通りの「押し目待ちに押し目なし」の展開となった。当然、内閣支持率は稀にみる高水準である。
かくも赫々たる成果を誇るアベノミクスであるが、実は、新奇なアイデアが秘められているわけではない。安倍晋三首相が「三本の矢」と称する「大胆な金融緩和」、「機動的な財政出動」、「成長戦略」は、いずれも景気対策の常道である。ただ、その中で最も重要かもしれない金融政策が、我が国ではとかく軽んじられていた。そこに光を当てたのがアベノミクスの最大の功績といえようか。
従来、我が国で景気対策といえば、まず、公共事業であった。市場の関心は「真水で何兆円の補正予算が組まれるか」で、それに乗数効果を掛けた分だけGDP(国内総生産)が拡大することが期待された。
一方、補正予算案を審議する国会議員の関心事は、予算の配分先にある。彼らが、次の選挙での当選を期して、自分を支援してくれる特定の地域の特定の企業の利益のために熱狂的に奔走したからこそ、公共事業は景気対策の王者として君臨することができた。その中心に自民党主流の経世会がいたことは、今さらいうまでもあるまい。
しかし、日本中のインフラが一通り整備された上に、公共事業の恩恵に浴さない都市生活者が人口の多数を占めるようになって、状況が一変した。ことに、ITバブルのころから、財政赤字の拡大や年金収支の悪化とセットで、利用者の少ない立派な農道や豪華な「かんぽの宿」がしきりにマスメディアの槍玉にあげられるようになり、公共事業は悪しき無駄遣いというイメージが定着してしまった。
たとえ、使われない道路であっても、その建設に要した費用はもっぱら人件費であり、そこで働いた人たちの生活費となって消費に回り、GDPの拡大には寄与したはずではあるが……。
※マネーポスト2013年夏号