遠方の墓参りは負担が大きすぎる、実家の墓を継ぐ人がいない──様々な理由で墓じまいを考える人が増えているが、「やらなきゃよかった」と後悔する人も絶えない。体験者たちの失敗談や専門家の意見から、学んでいこう。
厚生労働省「衛生行政報告例」によると、2023年度の墓じまいの件数は16万6886件で、10年前(8万8397件)の2倍近くに達した。
墓じまいとは、今ある墓を解体・撤去して更地にし、寺や霊園など管理者に区画を返すこと。そこから新たな場所に納骨することを「改葬」と言い、現在ではそこまでの一連の手続きを墓じまいと呼ぶことが一般的となった。
だが、墓じまいブームの陰には思わぬ落とし穴がある。
都内在住Aさん(55)は福岡県にある先祖代々の墓の管理が難しくなり、墓じまいを決意。墓には大叔母(祖父母の妹)の遺骨が入っており、墓じまいの際にその遺骨を改葬先に入れるのか、誰かに引き取ってもらうかで親族と揉めたという。
「大叔母には子供がいますが疎遠で、なんとか連絡を取ったものの、高齢ということもあり遺骨の受け渡しを拒否されました。改葬先に大叔母の遺骨を入れるとお金がかかるのですが、結局費用の20万円は私が出しました」(Aさん)
こうした親族間のトラブル事例は珍しくない。終活コンサルタントの吉川美津子氏が語る。
「多いのは親族の合意を得ずに墓じまいをしたケースです。先祖代々の墓を報告せずに墓じまいしたら、親族から『私も墓参りに行きたいのに勝手に墓じまいするなんて』と揉めた、といったことがよくあります。同様に本家筋の墓を分家に伝えることなく改葬する場合も問題になりやすい」
菩提寺と檀家制度を巡る争いごともある。墓じまいを申し出た檀家が菩提寺から数百万円といった高額の「離檀料」を求められるケースがあるのだ。改葬コンサルタントで大橋石材店代表の大橋理宏氏が言う。
「檀家を辞めるからといって離檀料を支払う義務はありませんが、なかには200万円ほどを求めた寺もあります」