トランプ次期大統領は、モンロー主義(1823年に米国モンロー大統領が欧米両大陸の相互不干渉を提唱したことに基づく米国孤立主義)を復活させようとしているのだろうか──。1月8日付けの「NEW YORK POST」ではドナルド・トランプとモンローを掛け合わせた“DONROE DOCTRINE(ドンロー主義)”といった造語を大見出しにして、7日にフロリダ州の私邸で行われた記者会見の内容に最近の発言などを加え、次期大統領の外交政策をこのように称している。
・カナダを米国の51番目の州にする。
・グリーンランドを我々の領土とする。
・パナマ運河の管理権を獲得する。
・メキシコ湾をアメリカ湾に改名する。
これらは、米国が北アメリカ大陸全体に覇権を拡大、強化するような内容だ。米国第一主義から派生したであろうこうした主張は国際社会を困惑させる。そのほか貿易面では、中国に対して60%、その他の国には10~20%の追加関税をかけると公言している。
米国を再び偉大な国家にするための孤立主義というが、これは明らかに逆効果ではないか、という指摘も多い。米国経済の強さは金融、イノベーションの強さにあるが、長期的にはいずれに対しても悪影響が大きいだろう。
金融についてだが、米国の強さは多額の資金が米国に流入することに起因しており、それは米国金融市場に厚みがあり、利便性、安全性が高いからであるが、それを基礎から支えているのはドルに対する国際的な信用力だ。しかし、米国が貿易取引を制限したり、日鉄のUSスチール買収の政治的措置にみられるような海外からの投資に制限を加えるようなことを日常的に行うとすれば、米国のロシアへの制裁、BRICSの台頭、中東諸国の米国離れなど、水面下でドル覇権を弱体化させる動きがある中で、他国は米国への警戒感を強め、金融取引におけるドルに対する長期的な需要を減らしかねない。
ドルの対抗軸としての最大のライバルは人民元だが、幸いなことに、中国政府は自国金融市場の安定性、強い監督管理力の確保を最重要視しており、自由化の速度は遅い。そのため、人民元が通貨としての魅力を急速に高め、ドルから国際通貨の地位を奪うようなことがすぐに起こるとは思わない。