特殊詐欺被害から免れるための“一手”を考える(写真:イメージマート)
2024年、特殊詐欺の被害額は721億5000万円に上り、前年比59.4%増と過去最悪を記録した(警察庁)。その最新手口としては、犯人が息子や孫を騙る典型的な「オレオレ詐欺」ではなく、警察官や弁護士などを装って金を送るよう指示するものが増えているという。そこには誰もが狼狽するような“物語”が仕込まれているが、その後の展開により、実際に被害に遭うかどうかの結果は異なるようだ。シリーズ〈ルポ「特殊詐欺」の最新手口〉、フリーライターの池田道大氏が、特殊詐欺に引っかかって200万円を振り込んだ会社員の小倉和秀さん(仮名・40代)と、ギリギリで被害を回避した自営業の遠藤昭さん(仮名・50代)の証言から、「被害に遭う人と遭わない人の分水嶺」を探る。【全4回の第4回。第1回から読む】
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近年の特殊詐欺で増えているパターンは、警察官や検事など装った人物から携帯に連絡があり、「特殊詐欺の捜査であなたのキャッシュカードや通帳が見つかった。犯罪に関与していないことを証明するには、あなたのお金の紙幣番号を確認する必要がある」などと伝え、犯罪捜査を目的にスマホからインターネットバンキングで送金させるものだ。
インターネットバンキングやATMによる送金では紙幣番号など無関係に思えるが、詐欺犯がつくった“舞台”に入り込んでしまうと、そうした判断すらできなくなるのが実情のようだ。話の途中でLINEなどのトークアプリに言葉巧みに誘導され、それを通じて偽物の逮捕状や警察手帳などの画像が送られ、さらに真実味をもたせるケースもある。
2月4日には石川県の60代女性が、上記と同様の手口で現金計3億円を騙し取られていたことがわかった。被害額は、石川県内で確認された特殊詐欺の被害額として過去最高だという。
ひとたび「犯罪の容疑者」という設定を受け入れると、逮捕状や手帳などで心理的に追い詰められて、身の潔白を証明するため犯人側にお金を渡すことになる。共に犯人の口車に乗って入金を決意した小倉さんと遠藤さんの明暗を分けたのは、最終段階の「ネットバンキングでお金を振り込む」場面だった。
スマホに慣れ親しんでいても、ネットバンキングを使いこなすのは容易ではない。ましてや特殊詐欺に騙されている時は緊張してうまく操作できないことが十分に考えられる。
複数回にわたり計200万円を振り込んでしまった小倉さんは、スマホアプリを利用した振り込み方がよくわからなかったが、警察官を騙る指示役の“指導”があってスムーズに入金した。
「スマホ越しに『操作法がわかりません』というと、『まずはこのボタンを押して、次にこの画面になるから、そこを押して』などと詳しく教えられました。今にして思えば、事前に相当準備をしていたのでしょう」(小倉さん)