飲食業界や建設業界を中心に、今はあちこちで「人手不足」になっていると言われる。それにしては、なかなか好景気を実感できない。大前研一氏が「失業率と景気の関係」を解説する。
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日本のような成熟国では、失業率で景気は計れない。というより、景気を計る明確な指標はない。
なぜなら、景気はみんなの「フィーリング(感覚)」や「サイコロジー(心理)」で決まるからだ。そして、このフィーリングやサイコロジーというのは、マスコミの“偏向報道”によって拡大・拡散される。
たとえば、2008年12月31日から翌2009年1月5日まで東京の日比谷公園に開設された「年越し派遣村」のことを覚えている人も多いのではないか。失業者を支援するために、NPOや労働組合によって組織された団体が炊き出しや生活・職業相談、簡易宿泊所の設置などを行い、当時は連日、大々的に報じられた。しかし、それ以降「年越し派遣村」は一度も開設されていない。なぜなら、極めて少数の問題だからである。
にもかかわらず、マスコミが大きく取り上げると、政府はそれに反応し、マイノリティ向けの政策を場当たり的に繰り出す。「貧困者対策」という政策が不要だとは言わないが、そこに税金を注ぎ込んで失業者を減らすことを「景気刺激策」だと考えるのは、大間違いだ。