急激な円安進行が進んでいるが、すでに日本企業の多くが海外に生産拠点を移しているため、製造業が円安の恩恵を受けるのは難しい状況となっている。そうした中で脚光を浴びているのが観光業だが、はたして日本経済を救う起爆剤となりえるのか。かつて米証券会社ソロモン・ブラザーズの高収益部門の一員として活躍した赤城盾氏が解説する。
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捨てる神あれば拾う神あり、とばかりに期待がかかっているのが観光業である。実際、この分野に限っては円安効果が顕著で、統計上の訪日外国人客数だけでなく、そこかしこで聞きなれない外国語を耳にする機会も、めっきり増えた。まことに喜ばしい。
しかし、水を差すのは気が引けるが、観光業が、製造業に替わって、我が国の経済成長を牽引するとは思えない。
国連の専門機関である世界観光機関によれば、2013年に外国人旅行客から得た収入がもっとも多かった国はアメリカで、約1396億ドル(ちなみに、日本は約149億ドル)であった。ただし、それがアメリカの巨大なGDP(国内総生産)に占める割合は1%に満たない。
以下、スペイン、フランス、中国、マカオ、イタリア、タイ、ドイツ、イギリス、香港などが数百億ドルを稼ぐ観光大国である。
マカオ、香港という特殊な小国や常夏のビーチに囲まれたタイでは国情が違いすぎるから、スペイン、イタリア、フランスなどが観光大国の参考例といえようか。それぞれのGDPに占める割合は、スペインが約4.4%、イタリアは約2.1%、フランス約2%。ちなみに、ドイツは約1.1%、日本は約0.3%に留まる。
ここで、ヨーロッパの状況を想像してみればいい。自動車や化学薬品を輸出して儲けたドイツ人が、パリで買い物をしたり、イタリアの遺跡を訪れたり、スペインでバカンスを楽しんだりしているのであろう。どちらが経済的に成功しているかは、言うまでもあるまい。
※マネーポスト2015年新春号