政府が導入を目論んでいる「75歳年金受給開始」。これまでの「高齢者」を高齢者扱いせず、「支え手」と捉える政策である。健康寿命も延び、65歳ではまだまだ元気だと思われるが、それ以降も5年、10年と年金がもらえなくなれば、健康リスクに直面する。すると当然、医療費が大きな負担になる。
医療機関の「受療率」は、例えば外来では55~59歳で10万人中5361人だが、65~69歳になると8309人に急増する(厚労省「患者調査」2014年)。医療費の自己負担額も上昇する。40~44歳の1世帯当たりの保険医療費が月1万1105円であるのに対し、65~69歳は1万6291円に増加する(総務省「家計調査」2016年)。
しかも定年退職前後には、新たに健康保険に加入する必要がある。退職後に無職となった場合は、市区町村ごとに運営される国民健康保険に入るケースが一般的だが、無年金ならば貯蓄から保険料を支払う必要がある。75歳年金受給時代においても、「支え手」としての負担は維持されるのだ。
加えて、この空白の期間の「大病」は家計を強く圧迫する。65歳以上で入院者数トップ3は「脳血管疾患」「がん」「心疾患」(患者調査)の順だが、いずれも高額な医療費がかかることで知られる。