2016年12月に改正国民年金法が成立し、デフレ下で見送られたマクロ経済スライドは蓄積され、物価上昇率がプラスになった時に一気に発動されることになった。その結果、今後は平均すると毎年1%程度ずつ確実に実質的な年金支給額が下がっていく。問題は、どこまで下がるのかということだ。経済アナリストの森永卓郎氏は「年金65歳支給を守ろうとすると、将来的に現行支給額の4割はカットされることになるだろう」と予測する。以下、森永氏が解説する。
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厚生労働省が年金の支給開始年齢をひとまず70歳に繰り延べしたいと考えているのは間違いない。とはいえ、65歳支給自体が実はまだ移行期間で、段階的に支給年齢が引き上げられている特別支給の老齢厚生年金の65歳前支給が終了する(男性は2025年、女性は2030年)まで完了しない。かつて支給開始年齢を繰り延べしようとして国民の猛反発を買い、断念した経緯もあって、厚労省も当面は繰り延べするのは困難と考えているだろう。
ただし、日本の年金制度は年金支給のために必要な財源を、その時々の保険料収入から用意する「賦課方式」であるため、少子高齢化で支える側が減って、もらう側が増えていくわけだから、年金の給付水準が下がるのは避けようがないことも現実だ。制度を維持しようとすれば、「保険料の引き上げ」か「給付水準の引き下げ」か「支給開始年齢の繰り延べ」かの3つしか選択肢はないのである。
3つの選択肢のうち、保険料をこれ以上増やすのは、会社員にも会社にとっても耐え切れず非常に困難だ。また、政府が年金支給年齢を繰り延べるといった途端に、国民の反乱が起きてしまう。そうした点から、当面、最も可能性が高いのは、年金の給付額がズルズルとカットされていくことだ。