安倍政権が掲げる働き方改革は、日本をどのように変えようとしているのか。経済アナリスト・森永卓郎氏は、「安倍晋三総理がやろうとしているのは、一億総活躍社会という名のもとに国家総動員で働かせる富国強兵策に他ならない」と論破する。森永氏は、お金目当てに嫌な思いまでして働く必要はない」と、以下のように提唱する。
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日本の生産年齢人口(15~64歳)は、1995年をピークに大きく減少してきた。ところが、第2次安倍政権が発足して以降、何と日本の労働力人口は280万人も増えている。
なぜそんなことが起こったかというと、高齢者や女性の労働参加が拡大したからだ。安倍政権下の5年間で、経済のパイは確かに大きくなったが、一方で労働者の実質賃金は4%も減少している。それを棚に上げて、安倍政権は、賃金が下がって生活が苦しいなら、今まで働いていなかった人もみんな働けばいいじゃないかと提唱した。高齢者でも女性でも、働ける者は全員働けというのが、まさに働き方改革という政策の実体なのだ。
実は、高齢者が体に鞭打って労働に参加して所得を増やしても、感じる幸福度は上がらないというデータがある。10数年前に、医学者で経済学者のイチロー・カワチ氏が、所得と幸福度と寿命の相関関係を世界的規模で調査した研究結果だ。
それによると、1人当たりの所得が1万ドル、100万円ぐらいまでは、所得の増加とともに幸福度も上がり寿命も延びる。ところが、所得がその水準を超えると、幸福度の上昇も寿命の延びも頭打ちになってくるというのだ。この研究結果が端的に物語るのは、どうやら「幸福はカネでは買えない」ということだ。