景気悪化に伴い株価下落が想定されていた日本株が持ち直した背景には何があったのか。かつて米証券会社ソロモン・ブラザーズの高収益部門の一員として活躍し、巨額の報酬を得た後に退社した赤城盾氏が解説する。
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甘く見ていた消費増税によるダメージの深さが徐々に明らかになる中、5月下旬の金融政策決定会合でも、市場関係者の切望する追加緩和は見送られた。頼みの綱を失った日本株は、将に底が割れる瀬戸際に追い込まれたが、なぜか急上昇に転じた。市場では、株価を内閣支持率の指標と考える官邸の強い意向を受けて、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が強力な買いを入れたのではないかと噂された。
それが本当ならば、政権与党が、人気取りのために、実質的な国費を投じて株を買わせたことになる。株式市場は経済のもっとも優れた先行指標であるから、政府がその動向に気を配ること自体はまことに結構な話である。しかし、操作を試みるのは、企業にたとえていうならば粉飾決算で、極めて危険な発想といわざるを得ない。
実弾を撃つ他に株価を支える手立てが見つからなかったのであれば、いよいよアベノミクスの賞味期限も切れたと白状したようなものだ。
株買いの秘密指令が本当に出たのかは知る由もないが、安倍晋三首相がGPIFの運用見直しの前倒しを指示したことは確かに報道された。当面の下値は限定されると見た投機筋は、とりあえず先物などの売り持ちを買い戻す。もろもろの年金基金は先んじて株式のウェイトの引き上げに動いたであろう。
ともかく、市場の雰囲気は一変したのであったが、それでも、日経平均株価は、昨年末につけたリーマン・ショック後の高値1万6291円にまだ及ばない。2014年の前半は、史上最高値を何度も更新したアメリカなど世界の株式市場の中で、日本株のパフォーマンスは際立って低調であった。
※マネーポスト2014年秋号