2016年は個人投資家を取り巻く税制に複数の変更が予定されている。中には年内と年明けで支払う税額が大きく変わる金融商品もあるので対応を急ぐ必要がある。
影響が特に大きいのは、債券や外貨MMF(マネー・マーケット・ファンド)の売却益に対する扱いだ。これまでは独自のルールが定められていたこれらの金融商品の税制が、2016年からは「金融所得課税の一体化」として上場株式や投資信託と同じ扱いとなる。税率は20%に統一され、これまでは認められなかった株や投資信託との損益通算ができるようになる。特定口座に入れることも可能になるため、面倒な確定申告を省略することもできる。
わかりにくかった税制が統一されてシンプルになることは歓迎したいが、これらの金融商品を保有する投資家にとっては、課税が年内か年明けになるかで税額が大きく変わる可能性があるので注意したい。
たとえば、定期的に利息が支払われる外貨建ての利付債や外貨MMFは、現行では為替差益や値上がりによる利益が非課税となっている。投資時期にもよるが、米ドル建ての債券やMMFを長期保有する投資家の多くはアベノミクス以降の円安でかなりの含み益が出ているだろう。この場合、年内に換金すれば非課税で為替差益を手にできるのに対し、年明けにずれ込めば一律で20%課税されてしまうのだ。
一方、下落している通貨であれば含み損が出ているケースもあるだろう。この場合、年内に損切りしても株や投信などの利益と相殺することはできないが、年明けに行えば損益通算ができるようになる。通算する利益がない場合でも3年間の繰越控除ができるので、最終的に税額を減らせる可能性がある。
ただし、同じ外貨建ての債券でもゼロクーポン債の税制は複雑で、現行の税制でも非課税にはならないことがある。ゼロクーポン債は定期的に支払われる利子がない分、額面よりも大幅に割り引いた金額で購入できる債券で、売却益は総合課税の対象となる。総合課税とは、給与などの他の所得と合算して計算されるしくみで、所得が高いほど税率が高くなる累進課税で、最大で55%の税率が適用されることになる。
それでも、実質的には非課税となるケースも多い。ゼロクーポン債の売却益には課税する際50万円を差し引く特別控除という制度があり、売却益が50万円以内に収まれば課税の対象からはずれるからだ。しかも、保有期間が5年を超えると控除後の利益を半分にして税金を計算される決まりもある。それでもなお、50万円を超える利益があると総合課税の対象となるのだ。
結論としては、利益が50万円におさまるなら年内の売却が有利となるが、超える場合はその人の所得によって税率が異なるため判断も変わってくる。一般的に保有期間が5年以下で所得税率が20%を超えている人は、年内に売却するよりも年が明けてから20%の税率を適用されたほうが有利といえるだろう。
逆に売却損が出るような場合なら、年内に損切りしておくと給与との損益通算が可能になる。年明け以降だと損益通算の対象が株などの金融商品に限られるので、相殺できる利益が必ずあるとは限らない。年内に給与と相殺しておく方が確実なうえ、税率が高い人ほど節税効果も高くなるだろう。
ちなみに、ここで説明した債券に関する税制はすべて償還前に売却した場合に限られるので注意したい。償還を迎えてしまうと雑所得として総合課税の対象となり、年内であっても非課税の恩恵は受けられない。
また、これらの方法はあくまで節税の視点からの対策であり、当然ながら利益や損失を含めた損得は相場環境によって異なる。市場の動向をにらみながら慎重に判断してほしい。
■文/森田悦子(ファイナンシャルプランナー・ライター)
※マネーポスト2016年新春号