今や日本の一大産業となっている「100円ショップ」だが、その原点は、愛知県の郊外の小さな店だった。1985年3月、日本初の店舗型100円ショップとなる「100円ショップLIFE」が誕生。脱サラして100円雑貨の移動販売を行っていた愛知県春日井市在住の松林明さん(63才)が、顧客の要望に応える形で倉庫を店に改装してオープンさせたのだ。
田舎町の小さな倉庫から始まった100円ショップの成長は、日本人の買い物を大きく変えた。何よりもまず、生活に必要なもの、欲しいものがワンコインで手に入ることは多くの人に喜びと驚きを与えた。経済アナリストの森永卓郎さんが語る。
「100円ショップの存在は、格差社会の福音でもあった。入学や引っ越しなど新生活をはじめる際に、無理なく必需品をそろえられるのは、少しでもお金を節約したい人にとっては大変ありがたいこと」
また、100円ショップが成長するにつれ、消費者の意識も変わっていく。100円ショップの“生みの親”である松林さんは、その変化を肌で感じていた。
「車で移動販売をしていた時は、ほとんどのお客さんが『あら、お得じゃない』と飛びつく“衝動買い”でした。でも店舗を出してお客さんが定着すると、“買うものリスト”をメモして店に来るかたが増えました」
必要なものをあらかじめ考えて買う“目的買い”にシフトしたのだ。森永さんが言う。
「100円ショップで売っている商品はその安さゆえ、手軽に買える一方で、使いづらかったり、壊れやすかったりするものもある。今自分に必要なものは何か、またそれはきちんと使えるものなのか、おびただしい商品の中からそれを見極める消費者の力量が問われる場だけに、多くの人が目利きになった」
何を100円ショップで買い、何をデパートやスーパーで買うか。消費者は品物を目で見て、手で触れて「これなら買おう」と賢くジャッジするようになった。単に安いからといって飛びつくのではない。
※女性セブン2018年3月29日・4月5日号