世界的に情勢が不安定な状況の中、これからの為替はどうなるのか。30年以上の経験を持つ為替のスペシャリストで、バーニャマーケットフォーカスト代表の水上紀行氏が今後のユーロ/ドルの相場展開について解説する。
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ある情報が耳に入ったのは、しばらく前のことでした。2015年6月に米大手格付け会社スタンダード&プアーズ・レーティングズ・サービシズ(S&P)が、ドイツ銀行の格付けを2段階下げていたというのです。
ドイツ銀行といえば、ドイツ最大手の銀行であり、なおかつ、世界でもトップクラスの銀行です。このドイツ銀行が、デリバティブ(金融派生商品)を使って、ギリシャの債務の保証人という形になっており、ギリシャがデフォルト(債務不履行)に陥れば、ドイツ銀行に無制限の支払い義務が生じることから、2段階の格下げになったもようです。
さらに調べてみると、ドイツ銀行のデリバティブ取引の残高は75兆ドルにのぼり、ドイツのGDP4兆ドルをはるかに上回っているということが判明しました。
そして、10月末に、ドイツ銀行は、従業員8万人のうちの3万5000人を、これから2年間で削減すると発表しました。従業員数のほぼ、半分を削減する一方、デリバティブ取引の残高が天文学的な数字というミスマッチは、いやが上にも、頭の中で警戒信号が点滅しました。その危機の規模といい、世界を巻き込んだ金融危機の再来の可能性があります。
さらに、ドイツ銀行のみならず、既に大スキャンダルとなったフォルクスワーゲンの不正問題も発覚し、同社に最大で180億ドル(約2兆1600億円)の制裁金が米当局から科せられる見通しとなっています。しかも、ドイツの輸出依存度は、対GDP比で44.8%と日本の17.1%をはるかに上回っています。
また、ドイツはGDPの10%を自動車産業に依存しているということで、この点からも、フォルクスワーゲンの世界的な販売不振が続けば、ドイツ経済に多大な悪影響を及ぼすことになるものと思われます。
フォルクスワーゲンの場合、同社の従業員数は55万人もいます。もしもドイツ銀行同様の大規模なリストラをすることになれば、従業員数が多いだけに大きな社会問題にもなりかねません。難民受け入れなど言っていられないような事態に陥る可能性も、今後のドイツにはあると考えています。
いずれにしましても、ドイツ発のリーマン・ショック級の危機の発生に対して、心して備えておくべきかと思います。為替では、ユーロ/ドルは、ドイツ銀行危うさがさらに表面化してくると、大きく下落するもの思われます。
テクニカル的に申し上げれば、2014年5月からの下落が、2015年3月にいったんの底をつけたあと踊り場を作ったものの、11月から下落トレンドを再開しているもようです。 当面は、1.0000がターゲットになるものと思われますが、たぶんそれでは収まらず、2016年はさらに0.9000を目指すものと思われます。
※マネーポスト2016年新春号