「相続放棄」──そう聞くと、「お金をドブに捨てることになるのではないか」と思う人も多いかもしれない。しかし、「こんなことになるなら、相続しなければよかった……」と、東京に住む会社員A氏(52)は後悔している。
老人ホームに入っていた父が1年前に亡くなり、もともと父の実家があった九州の田舎の100坪ほどの土地を相続した。他に遺産はなく、相続税はかからなかった。
「先祖の土地だし、相続税がかからないなら持っておこう」と考えたのだ。固定資産税・都市計画税だけなら年4万円ほどで済む。
ところが、土地の名義変更が終わってほどなく、遠い親戚から連絡があった。父の生前、土地を処分したいという相談を受け、荒れたままでは売れないからと簡単な造成工事をしてから売りに出していたのだという。
工事代金の150万円は売却後に精算することになっていたが、なかなか買い手がつかない。
「相続したのなら、息子さんが払ってくれないか」という話で、工事前後の現地の写真も送ってきた。確かに、調べてみると固定資産税も造成工事後に少し上がっていた。
そう言われても、売れない土地に金をかけても仕方がない。A氏は困り切っている。相続税がかからないから……、と思って相続したものの思わぬ落とし穴があったわけで、「相続放棄」という選択肢を視野に入れなかったことを後悔しているという。
※週刊ポスト2018年6月1日号