東京・新宿御苑にほど近い閑静な場所にある一軒の店。店内に入ると、甘いチョコレートの香りがふわっと広がる。販売するガトーショコラは、2か月先まで予約が埋まる大人気商品だ。店主の氏家健治さんがこの場所にレストランを開いたのは20年ほど前のこと(現在は、ガトーショコラの販売のみ)。
「ガトーショコラはデザートとして出していたものですが“持ち帰りたい”という声を多くいただいて、テイクアウトに対応し、本格的にネット通販として販路を確立したのは約10年前です。テイクアウトを始めた当初は1日3本程度の売り上げが、贈答用などでお買い求めいただくようになり、ネットでの売り上げはどんどん伸びていきました」(氏家さん。以下「」内同)
しかし、売り上げの伸びと比例するように頭を抱える問題も山積みになっていく。
「代引きで注文を受けて配送してもなかなか受け取らずに、結局お金も支払われなかったり、銀行振込で受けても期日までに入金がなく何度も振り込みのお願いをしたり。ごく一部のかたですが、対面でのやり取りでないぶん居丈高になられるかたもいらっしゃいます。そうしたクレーム対応に割かれる時間、発送にかかる作業や送料などを考えるうちに、通販はやめてしまおうという思いに至ったんです」
氏家さん自身、通販をやめれば一時的にでも売り上げは落ちるだろうと覚悟していた。ところが──。
「3~4割は落ちても仕方がない、それでも黒字だしなんとかなる、と決断しましたが、売り上げは私の予想に反して落ちなかった。それどころか、年々上がっているんです。目立つのが、“インスタグラムを見ました”というお客様です。インスタグラムを見ると、ガトーショコラの断面などをおいしそうに撮ってくれて、その拡散力には驚いています」