シンガポールでの“歴史的”な米朝首脳会談で、ドナルド・トランプ米大統領は「外交的名声」を、金正恩・朝鮮労働党委員長はひとまず「独裁体制の保証」という安心を得た。しかし、安倍晋三・首相は、拉致問題解決に確たる展望が拓けないまま、トランプ氏から巨額の「拉致口利き料」の支払いを迫られている。ツケを払わされるのは国民である。
トランプ氏は6月初頭に行なわれた日米共同記者会見の冒頭、数十億ドルという金額をあげて商談の詳細をこう明らかにしたのだ。
「安倍首相はつい先ほど、数十億ドルもの戦闘機やボーイング、農産物などあらゆる製品を購入すると言った」
安倍首相は昨年の総選挙で、消費税率を2019年10月に8%から10%に「必ず引き上げる」かわりに、税収の使い途を見直して2兆円を幼児教育や大学の無償化にあてると公約した。「子育て世代の負担軽減」を強調したのはいいが、そうなると、消費税が10%に引き上げられても、本来、増税でまかなうはずだった年金、医療など社会保障費が2兆円足りなくなる。
加えて、政府は次の消費税増税の際に、食料品などの税率を8%に据え置く「軽減税率」導入の方針を決めており、それによって1兆円の財源不足が生まれる。さらに、消費増税を延期した4年の間に社会保障費の自然増が毎年5000億円ずつある。年金や健康保険などの支払いベースが2兆円増えているのだ。不足は合わせて年間5兆円にものぼる。
そこに安倍首相が「拉致口利き」の見返りにトランプ大領に約束した兵器の大量購入など防衛費の倍増計画もある。その財源をどこから捻出するのか。財政論が専門の藤岡明房・立正大学経済学部教授が指摘する。
「日本の防衛費は現在GDP(548兆円)の1%枠内にギリギリ収まっている。これを2%枠にすると上限は約11兆円。防衛予算を年間6兆円増やし、かつ社会保障の不足分や軽減税率による減収を補うとなると毎年11兆円もの新たな財源が必要になる。ほぼ消費税5%分の税収に相当する金額です。
トランプ氏の要求に応えるには、来年10月に消費税10%に引き上げた後、すぐに税率15%まで引き上げなければならない。米国の要求に合わせて政府自民党が防衛費倍増という財政的禁じ手を打ち出したのは、日米の間で増税のシナリオまで織り込まれているとみることができる」