これまでの人生80年時代は、「貯金が3000万円あれば老後は安心」と思われていた。定年後に夫婦で時々旅行に出かけたり、仲間とゴルフや釣りなど趣味を楽しむ「ゆとりある生活」をするには月額36万円程度かかるとされる。厚労省の標準モデルでは、サラリーマン世帯(妻は専業主婦)の年金受給額は夫婦で月額約22万円。年金だけでは必要額に毎月14万円足りない。
定年後の第二の人生をざっと20年間(65歳の年金受給開始から85歳前後まで)と考えると、3000万円の貯金があれば、不足分を貯金から取り崩しながら“豊かな老後”を送ることができる計算になる。“貯めたカネをチビチビ使う”という「貯蓄取り崩し」型の生涯プランだ。
実際、多くの人は定年を迎えたらそうした青写真を描き、退職金のほとんどを貯金して老後に備えてきた。総務省の最新の家計調査報告で60歳以上の世帯の平均貯蓄額が2384万円(2017年平均)に達していることからもそれがわかる。
ところが、人生100年時代に、そんな“未来年表”は成り立たない。定年後の人生が20年から40年に延びると、毎月「36万円」の生活を維持するには、年金の他に7000万円近い貯金が必要になる。2000万~3000万円の貯金があってもいわば“焼け石に水”だ。
「そんなこといっても7000万円貯めるなんて絶対無理だ。定年後は爪に火を灯すようにギリギリまで出費を切り詰め、いまある貯金を細く長くもたせるしかない」
そう悲観的に考え、ため息をついているシニアが多いのではないか。せっかく豊かな老後を求めてまとまった老後資金を貯めたはずだったのに、「今後は、孫にあげる小遣いをケチり、七五三や進入学のお祝儀も減らそう。旅行や趣味もあきらめ、晩酌はせいぜい週1回。貯金の一部は株で運用してみようと思っていたが、そんなリスクを負うのはもってのほか。安全な定期預金に置いておくしかない」と。