定年後、いったい自分が何をして過ごせばよいのかわからない。そんな人は少なくない。これは地位にかかわらず似たような傾向があるらしく、役員まで勤め上げた人でも同様の問題に直面している。経営コンサルタントの大前研一氏が、日本企業で特有の慣習である「相談役」「顧問」制度について考察する。
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多くの日本企業で特有の慣習となっていた「相談役」「顧問」制度を見直す動きが広がっている。たとえば、資生堂、パナソニック、富士通、伊藤忠商事、日本たばこ産業などが相談役や顧問の廃止を決めた。
なかでも、とりわけ話題を集めたのがトヨタ自動車だ。7月1日付で約60人いた名誉会長、相談役、顧問を9人に削減したのである。
これまでトヨタでは、役員が退任したら副社長以上は相談役を4年間、専務以下は顧問を1~2年間務めることが慣例になっていた。グループ全体で従業員が約36万5000人の巨大企業とはいえ、60人もの相談役や顧問がいて、その人事が株主総会を通っていたというのは驚きである。欧米の会社では、たとえ9人であっても株主総会を通らない。
つまり、そもそもそういう制度があること自体がおかしいのだ。世界企業であるトヨタが日本人の役員だけ退職後も厚遇していることが知れ渡ったら、一刻も早く世界共通とするか、すべて廃止するしかないだろう。
今回の制度見直しの動きは、経済産業省の提言などに基づいて東京証券取引所が上場企業に提出を義務付けている「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の記載要領を改訂し、任意規定ではあるが、2018年1月から相談役や顧問の氏名、役職・地位、業務内容、勤務形態・条件、任期、報酬総額などの情報開示を求めたことがきっかけだ。それで日本企業における“世界の非常識”が改善へと向かったのである。