いまや物件探しに欠かせない不動産ポータルサイト。しかし各サイトに掲載された物件情報の中には、実際には取引できない「おとり」の物件が含まれていることもあるという。不動産・住宅総合情報サイト『SUUMO』で不動産広告の審査を担当し、不動産公正取引協議会と主要不動産ポータルサイト5社で成り立つ「ポータルサイト広告適正化部会」の部会長を務める橋本清司氏が、おとり広告について解説する。
「不動産のおとり広告には、大別して3つの類型があります。まずは『架空物件』。その名の通り、実際には存在しない物件です。また、物件自体は存在するものの、不動産事業者に取引する意思のない『意思なし物件』というパターンもあります。どちらも条件のいい物件を掲載することで反響を得ようという意図が働いているもので、典型的かつ悪質なおとり広告だと言えるでしょう。
最も数が多く、また見極めが難しいのが『契約済み物件』のおとり広告、つまりすでに部屋の契約が決まっているにもかかわらず、物件情報をポータルに掲載し続けているケースです。情報の更新にはどうしてもタイムラグが発生するため、明確に悪意があるとはなかなか断言できないのですが、契約できない優良物件の広告をあえて削除せずに集客を図っている事業者がいることも事実です」(橋本氏、以下同)
気になった物件について不動産会社に問い合わせた際に、「ついさきほど契約が決まってしまって……」といった説明を受けたことのある人も多いのではないだろうか。ポータルサイト側は掲載している物件の契約状況について「1週間以内の情報更新」を事業者に呼びかけているが、実際には定められた更新期限を大幅に超えて掲載を続けている事例も少なくないという。
おとりの物件情報によって問い合わせや来店を促し、代案として別の物件を紹介して売上につなげる。こういった営業方法が常態化してしまえば、ポータルサイトの利用者が不利益を被るのはもちろんのこと、不動産業界全体に対する信頼も失墜してしまいかねない。そこで、各ポータルサイトは全国の不動産公正取引協議会と協働し、表示規約に違反した事業者に対して広告掲載を停止する施策を進めている。
「かつての罰則規定から一歩踏み込んで、おとり広告や不当表示によって厳重警告・違約金の措置を講じた不動産事業者には、各ポータルでの広告掲載を原則1か月以上停止していただき、その期間で広告内容と広告掲載方法の見直しをお願いしています。不動産会社からすればネットからの集客は営業活動の生命線のため、非常に重い罰則とも言えるでしょう」