部屋探しの現場に大きな変化が訪れている。大手不動産ポータルサイト『SUUMO』が実施した「賃貸契約者動向調査」によると、2017年の見学物件数は平均2.9件と過去最少を更新。不動産会社の実店舗への訪問数も平均1.6件と減少傾向が続いている。SUUMOで編集長を務める池本洋一氏は、こうした傾向は「2015年ごろから顕著になっている」と説明する。
「テクノロジーとデバイスの進歩によって、ウェブ上で物件情報を吟味できるようになったことが主な要因です。最近では物件の動画や室内の360度ビューなども普及し、実際に現場で確認する必要があるのは周辺環境くらい、ということも少なくありません。各ポータルサイトが情報開示に積極的な不動産会社を高く評価するアルゴリズムを導入し、広告を入稿する事業者に競争を促していることも大きいですね」(池本氏、以下同)
不動産会社が接客する時間が短縮していく流れは避けられないが、賃貸を考えている人が部屋探しにかける総時間が減っているわけではなく、「全体的な知識レベルはむしろ向上している」と池本氏は強調する。物件情報を見る目がよりシビアになっていく中で、部屋探しにおいて重視される条件はどのように変化しているのだろうか。
前述の「賃貸契約者動向調査」で、部屋を探すうえで「やむを得ずあきらめた項目」の最上位に「築年数」が入っているのは興味深い。従来の物件探しにおいては優先度の高かった築年数だが、ここ最近は新築と築30年の物件を100件ずつ掲載した場合、問い合わせの総数で築30年の方が上回るような状況にあるという。
「近年、築古の物件でもリノベーションによって内装が真新しくなっているケースが増加しています。SUUMOでも『リフォーム済』という検索条件がよく利用されており、築年数だけで判断すると優良物件を見逃す可能性があるという意識はポータルサイトのユーザーにも広く共有されているようです。加えて、現在はおおむね築35年の物件でも1981年6月に施行された新耐震基準を満たしているため、防災面の不安も少ないと判断されているのではないでしょうか」
また、3年連続で上昇を続けている「DIY・カスタマイズ経験率」も注目に値するポイントだ。たとえば、SUUMOで取り扱う全物件の中で「カスタマイズ可」の物件は1~2%程度しか存在しないにもかかわらず、2017年度のカスタマイズ経験率は18.9%。入居者の希望に対して、物件を提供する側が追い付いていない実状が浮き彫りになっている。
DIYやカスタマイズというと大掛かりなものを想像しがちだが、池本氏によると「壁に棚板を付けたり、照明やシャワーヘッドを交換するといった、簡単な機能改善の範疇に収まるものがほとんど」だという。退居時に手軽に原状回復できる程度のものだからこそ、物件のオーナーも気付かないことが多いのだとか。事業者ではなく入居者がムーブメントを先導する状況にあって、池本氏は今後のトレンドをこう予想する。