もし、年金受給を翌日に控えた「64歳364日」で夫が急死してしまったら、これまで40年間も納めてきた保険料は誰のものになるのか? 年金は“夫の債権”なのだから、そっくり妻に“相続”されるのが当然……ところが、そうはならない。複雑怪奇にして不条理な“もらい損ね年金”の行方やいかに。
年金受給前、あるいは受給中に不慮の死が訪れたら、残された家族のために「遺族年金」が支給される。だがその額は、職業や収入、家族の有無などで大きく異なる。
夫は元サラリーマン。専業主婦の妻が残されたら
年金受給中の元サラリーマンの夫が亡くなった場合、厚生年金の加入期間がない専業主婦の妻には「遺族厚生年金」が支払われる。
受給額は、夫の老齢厚生年金の4分の3。そう聞くと、「夫が月々もらっていた年金の4分の3がもらえる」と思い込む人が多いが、そうではない。
注意すべきは、夫の年金はいわゆる“1階部分”の「老齢基礎年金」と、“2階部分”の「老齢厚生年金」の2階建てで支払われていることだ。夫の死後、妻が受給する遺族厚生年金は、2階部分にあたる老齢厚生年金に4分の3をかけた額。1階部分は、妻がそれまで受給していた「自分の基礎年金」だけしか払われない。
例えば図のように、夫・Aさんの年金が基礎年金6万円+厚生年金10万円の計16万円、妻の基礎年金が6万円のケースで見てみよう。この場合、夫婦合計の受給額は22万円だった。ところが不幸にして夫が亡くなると、遺族厚生年金7.5万円(10万円の4分の3)と妻の基礎年金6万円の合計13.5万円しかもらえなくなる。実に8.5万円のカットになるのだ。