65歳以上の認知症高齢者が急増し、介護・福祉などの施策が急務になる一方で、65歳未満で発症する「若年性認知症」の実態はまだまだ不透明だ。
厚生労働省が2009年に発表した推計では、18~64歳人口における10万人当たり若年性認知症者数は47.6人。全国に換算すると約4万人という計算になるが、この数値はあくまでも推計に過ぎず、実際はもっといるという見方が強い。若年性認知症の症状は老年性のそれと同じだが、若いゆえのさまざまな問題があり、周囲への影響もきわめて大きい。
東京の郊外で暮らすハナさん(40歳)の母・ユリコさん(ともに仮名)は、60歳のときに若年性認知症と診断された。その時、芸人として活動していたハナさんは33歳。夢だった芸人になり、これからという時だった。
シリーズ「母が若年性認知症に…」では、ユリコさんが特別養護老人ホームに入った今、ハナさんが死に物狂いで過ごしてきた介護生活を振り返る。離職、母娘の葛藤、お金の話、ユリコさんが引き起こすさまざまな「事件」……。ここでは、最初に感じた母の異変について振り返る。(第1回)
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ユリコさんは1949年7月生まれ(現在69歳)。いわゆる「若年性認知症」と診断されたのは2010年6月(当時60歳)のことだ。ハナさんは、それ以来約8年間在宅介護を続け、今年9月、ユリコさんは特別養護老人ホームに入所した。
若年性認知症には、老年性とは異なる問題がある。まず本人が家計を支える立場なら、経済的な不安が生じる。子供がいれば、教育や就職への影響も考えられる。また、家族が面倒をみる場合、家族にとっても早い年齢での介護を余儀なくされる。