2月24日に東証マザーズに新規上場(IPO)した「はてな」を皮切りに、今年も様々な業種の企業のIPOが予想されている。はてなは上場初日に買い注文が殺到し取引が成立しないほどの人気となったが、今後のIPO市場の展望はどうなるのだろうか。IPO分析の第一人者として知られる投資情報サイト「IPOジャパン」編集長・西堀敬氏が、昨年の傾向をもとに分析する。
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昨年のIPO件数は、前年の77件から増えて、最終的に92件となった。その全銘柄で上場後についた初値が公開価格を上回れば「勝ち」、下回れば「負け」、同値なら「分け」という基準による勝敗で見ると、82勝8敗2分けで勝率は89.1%。分けが2件あるので、負けて損をしたケースは9%以下しかなかった。
初値が公開価格に対して何%上昇したかという「初値騰落率」で見ても、92件の平均でプラス87%という高パフォーマンスとなった。
中でも、初値騰落率が高かったトップ3を挙げると、1位がロゼッタ(6182)のプラス433%、2位がアイリッジ(3917)のプラス429%、3位がネオジャパン(3921)のプラス402%(市場はいずれも東証マザーズ)。この3銘柄は、公開価格に対して初値が何と5倍以上に跳ね上がった。
今年は年初から世界同時株安が起こり、その要因となった中国経済の減速や中東、朝鮮半島の地政学的リスクの高まりなどへの懸念が長期化しそうなので、IPO投資の環境は昨年より幾分悪くなると見ている。
今年のIPO第1号と目された自動運転関連のZMPが上場予定を延期したように、今後もIPOを計画する経営者の上場マインドが冷え込む可能性が考えられる。そのため、今年のIPO件数は昨年より減って80件程度になると予想している。
ただし、その分、業績の裏づけがある厳選された銘柄しか上場してこない可能性が高いと見ている。2月にネットビジネスを展開する「はてな」が東証マザーズに上場したのを皮切りに、今後も玉石混交の「玉」といえる企業がバリュエーション(株価価値)的に割安な公開価格で上場してくると思われるので、長期保有に適した銘柄も多いと考えられる。
IPO環境次第で勝率が80%程度まで落ちる可能性は考えられるが、それでも確率からいえばかなり高い。したがって、今年もIPO投資戦略としては、できる限りブックビルディングに参加してIPO株を公開価格で入手し、上場後についた初値ですべて売り抜けるという短期勝負がまずは鉄則といえる。
一方、初値がついた後に購入してその後の値上がりを狙う「セカンダリー投資」はどうか。セカンダリーはその時の市場環境に左右されやすく、特に今年の環境下でのセカンダリー狙いで勝つためには、銘柄を厳選することが重要になる。その選別基準となるのは、何といっても業績が順調に拡大しているかどうかだ。その上で、外国人投資家が買っていない、外国人が売り浴びせる心配のない中小型株が特に狙い目と考える。
また、昨年までの傾向から判断すると、「調達額が10億円以下の小型株で、マザーズに上場する情報セキュリティ関連銘柄」であれば、セカンダリーでも妙味は大きいと見ている。この条件に合う銘柄が今後出てくるか、注視しておくべきだろう。
◆西堀敬(にしぼり・たかし):1960年生まれ。投資情報サイト「東京IPO」編集長(2002~2015年)を経て、投資情報サイト「IPOジャパン」編集長に。IR説明会、セミナーなども多数行なう。著書に『最新版 IPO投資の基本と儲け方ズバリ!』など。
※マネーポスト2016年春号