2016年の金市場動向を左右すると言われるアメリカの追加利上げ。3月の利上げが先送りされた場合、どのようなインパクトを及ぼすのか。マーケット ストラテジィ インスティチュート代表取締役の亀井幸一郎氏が解説する。
* * *
米連邦準備制度理事会(FRB)は2015年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で約9年半ぶりの利上げに踏み切ったが、当初の想定通り2016年中に4回の利上げを実施できるか否かに市場の関心が集まっている。
今年1月27日に発表されたFOMCの声明では、3月に追加利上げを実施する可能性は排除されなかったが、市場では3月利上げが先送りされる観測が強まっている。
仮に3月の追加利上げが先送りされた場合、そのタイミングで金市場に何が起こるのか。おそらく、これまでヘッジファンドによる本格的なショートカバー(空売りの買い戻し)が見られなかった金市場に、大きな反転の可能性が出てくるだろう。もしかすると、「3月の追加利上げは困難」との見方が広がった段階で金相場は動意づく可能性もある。
昨年12月~今年1月の米ドル建て金価格の推移を振り返ると、12月3日にニューヨーク商品取引所(COMEX)金先物市場で1トロイオンス(約31.1035グラム)=1045.40米ドルの安値をつけた。その後、同15日、16日に開かれたFOMCの利上げ見通しが16年は4回と発表されると、翌17日のNY金先物市場でファンドがもう一度売りを仕掛けた。
この時、金価格は1050ドルを割れたものの、下落は1046ドル台でとどまり、12月3日の安値1045・40ドルを割ることはなかった。これは、1050ドルを割れた直後から、中国を中心としたアジア系の強烈な買いが入ってきたためだ。
ちょうど中国で金が最も売れる春節(2016年は2月8日~)に向けた手当て買いの時期にも重なり、とりわけ中国の現物買いの引き合いが強かった。さらに中国国内では、の経済減速とそれに伴う人民元切り下げ観測が広がっており、ヘッジで金を買う動きも強まっていることがある。
また、中国人民銀行は昨年7月以降、金の購入量を公開しているが、毎月15トン~20トンベースで金を買い入れている。昨年12月にも19トン買っていたことが判明している。
結果的に彼らの旺盛な買いが、金市場でのファンドの売り崩し的な動きに歯止めをかけた格好だ。金相場にとっては、ここが一つの転機になったと思う。もしこの時、12月3日の安値を割れていたら、そのまま1000ドル方向に下落していく可能性が高かっただろう。ファンドはこれ以降、売り崩しに動くというよりは、ショート(売り建て)の買い戻しに転じたと見受けられる。
ちなみに、世界最大の金ETF「SPDRゴールド・シェア」は昨年11月以来、FOMC翌日の12月17日まで、米利上げ観測のもとで一貫して売られていた。この期間で同銘柄の残高は62トンも減少していたが、12月18日には残高が前日比で18.75トンもの大幅増に転じた。そこを転機に、2016年に入っても残高が増加に転じることはなかった。
※マネーポスト2016年春号