原油価格の急落に伴い世界経済に大きな影響が出ている中、経済アナリスト・森永卓郎氏は「最悪のシナリオも想定しておくべきだ」という。それは、サウジアラビアとイランの間で戦争が勃発する可能性だ。昨今の原油安の背景について、森永氏が解説する。
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年初からの世界同時株安は、中国経済失速と原油価格急落が要因だと、メディアは報じています。たとえば、中国の昨年度の貿易収支を見ると、輸入だけでなく輸出までが前年度比でマイナスに転落し、経済の失速が深刻な状況であるのは間違いありません。
ただ、中国の労働者の賃金はこの10年間でほぼ4倍に高騰しています。賃金水準がここまで高くなっているわけですから、低人件費を武器に安い消費財を大量生産し、世界の工場と化すことで成長を続けてきた中国経済が減速していくことは予見されていました。そのため、市場では織り込み済みの面もあり、今回の世界同時株安の要因としては大きくない。やはり、最大の要因は原油安なのです。
2年半ほど前には、原油価格は1バレル=100ドルを超えていました。それが、その4分の1程度の水準まで下落しました。これほどの原油安となった要因は、OPEC(石油輸出国機構)の中で減産の合意ができないからです。その理由については諸説ありますが、サウジアラビアとイランが国交断絶に至るほど激しく対立していて、減産の話し合いができないということが大きいでしょう。
そこに加えて、もう一段の深読みができます。サウジの背後には米国が、イランの背後にはロシアがいて、サウジとイランの対立は実は米露の代理戦争だという考え方です。産油国のロシアの経済に打撃を与える目的で、米国が裏でサウジに減産しないよう働きかけているという見方です。
実際に米国は、自国のシェールオイルがコスト割れの価格でも、採算度外視で輸出を継続しています。このことからも、ロシアを封じ込めようとする意図は明らかだと思われます。そうなると対立は根深く、簡単には解決しません。市場がそう見ているからこそ、原油価格は下がり続けており、この傾向はまだ2~3年続く可能性も考えられます。
さらに、最悪のシナリオも考えておく必要があります。米露の代理戦争であるサウジとイランの対立は、一歩間違えば本当の戦争につながりかねません。万が一そうなれば、日本経済が深刻なダメージを負うのは避けられません。
サウジは日本の最大の原油輸入先で、イランは第6位の輸入先です。しかも、サウジとイランの間にはペルシャ湾があり、その出口にはホルムズ海峡がある。ここを通って輸入先第2位のUAE、第3位のカタール、第5位のクウェートの原油が日本に運ばれてくる。ホルムズ海峡が封鎖されるような事態となれば、日本の石油の約8割が調達できなくなってしまうのです。
それは、石油価格がいきなり数倍に暴騰するという種類のショックだけではなく、そもそも物理的に石油が手に入らなくなるというショックを意味するのです。そうなればもちろん、日本株の暴落も避けられないでしょう。
※マネーポスト2016年春号