親が認知症になったとき、困るのが相続の問題。「遺言書」の作成もできないため、相続トラブルに直結しがちだ。そこで、こうしたケースに備えて、事前に契約しておきたいのが「家族信託」だ。
「家族信託」は親が自分の財産の一部を家族に信託し、運用・管理してもらうもの。信託契約の内容次第で家族(受託者)は運用に広い裁量権を持つ。これを活用すれば、「家は長男」「賃貸経営のアパートは次男」「預金は長女」などと分割して信託し、生前に事実上の遺産分配しておくやり方もできる。
もっと興味深いのは、遺言では財産の承継先を指定できるのは1代限りだが、家族信託を利用すれば“数世代にわたる相続”まで指定できることだ。
A氏の長男夫婦には子がなく、次男には1人息子がいる。先祖伝来の家屋敷を同居する長男に相続させるつもりだが、自分の死後、長男が嫁より先に亡くなれば、家屋敷は嫁が相続し、その先は嫁の実家の兄弟に渡ってしまう。長男には持病があるが、嫁は元気満々だ。どうしたものか。
『親が認知症になる前に知っておきたいお金の話』の著書がある家族信託コンサルタントの横手彰太氏が解説する。
「長男夫婦が亡くなった後、家屋敷を孫(次男の息子)に継がせたい場合、家族信託で財産の継承順位を決めておくことで、通常の相続であれば嫁の親族に渡るはずの財産を孫に継がせることができます。契約は30年効力を持つ」
同様に、家族信託を利用すれば「妻の“連れ子”には財産を渡さない」「一番可愛い孫に家を継がせる」といった継承順位を決めておくことも可能になるのである。
※週刊ポスト2019年2月8日号