通常は65歳受給開始の年金だが、減額と引き換えに前倒しで受け取る「繰り上げ受給」と、後ろ倒しにするかわりに増額される「繰り下げ受給」という制度がある。「自分は年金を早くもらったほうがいいのか」を考えていく上で、知っておいたほうがいいことがある。
「繰り上げ受給すると年金は必ず減り、繰り下げれば必ず増える」──そんな“常識”に当てはまらないケースがあるのだ。
ポイントは「住民税」である。大都市圏で生活する65歳以上の年金世帯(扶養家族は妻1人)の場合、夫の年金収入が211万円以下であれば、住民税を納めなくて済む。
いわゆる「211万円の壁」である。この壁を越えるかどうかの違いは思いのほか大きい。住民税がゼロになるだけでなく、211万円以下になることで夫婦の年間の社会保険料負担が10万円近く下がる。高額療養費の自己負担上限も低くなり、自治体によっては入院時の食事代が減額されるなどの仕組みが用意されていることもある。
とりわけ、病院にかかる機会が増える年金受給世代にとっては、心強い支えとなる。
つまり、年金収入211万円以下の人が繰り下げ受給を選んで「壁」を越えると大損になるリスクがあるし、逆に211万円を少し超える程度の人は、繰り上げによって受給額を敢えて減らしたほうが得になることもあり得るのだ。
たとえば年金収入220万円の人は、「9か月の繰り上げ」をすることによって、211万円をわずかに下回ることができる。
そうしたシミュレーションをした上で、自分が暮らしている自治体で住民税非課税世帯になると、どのような“特典”があるかを確認し、「敢えて減らして早くもらうか」を適切に判断したい。
※週刊ポスト2019年4月19日号