世界のマネーに異変が生じているのか──3月下旬、米国債市場で、長期金利(米国債10年もの)が短期金利(米国債3か月もの)を下回り、長短金利が逆転する「逆イールド」が発生した。通常、国債の金利は期間が長いほど高くなり、それが逆転することは極めて珍しい。
市場関係者が将来的に金利が下がると見ている場合に生じるこの現象は、景気後退の予兆とされる。実際、2000年に逆イールドが発生してのちにITバブル崩壊へとつながり、2007年にも発生してサブプライムローン・ショックからリーマン・ショックへと連なる世界的金融危機をもたらした。
長引く米中貿易摩擦問題にブレグジット(英国のEU離脱問題)など、ここにきて世界経済の課題は山積しているが、はたして今回も景気後退のサインなのか。グローバルリンクアドバイザーズ代表の戸松信博氏が解説する。
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世界中がリーマン・ショック対策に追われた2008年以降、大規模な金融緩和が各国で相次ぎ、世界中にマネーが溢れる過剰流動性が続いてきた。世界であり余ったお金は少しでも儲かる運用先を求めて、景気のいい米国株を中心に世界中の市場に流れ込んできた。
ところが、米国が量的緩和をやめ、利上げに踏み切った後、トランプ政権が大規模減税とインフラへの財政投資という積極策に打って出たのに対し、欧州では緊縮財政が続き、日本も消費増税を控えるなど大胆な財政政策は打てない緊縮状況にある。中国も景気減速懸念から大規模減税を打ち出すなどようやく腰を上げた段階。いわば米国の積極策だけが浮き彫りになった格好だ。
その結果、他に満足のいく運用先が見当たらない状況で、米国だけが株価はもちろん、債券利回りがいいと世界中から注目を浴び、米国債に資金が集中している。世界中を見渡しても、リスクの高い新興国の債券利回りならいざ知らず、長期国債(10年債)の利回りが2.6%前後、かつ通貨が安定的なものは他に見当たらないわけだから、それも当然といえるだろう。