「2027年までにキャッシュレス決済比率を40%まで引き上げる」と政府は意気込むが、その背景には何があるのか──。
キャッシュレス決済で大きな話題を呼んだのが、ソフトバンクとヤフー両社によって設立されたペイペイ株式会社が昨年12月に行った「100億円あげちゃうキャンペーン」だ。利用者がPayPayを利用して購入したら、購入金額の20%相当がポイント還元されるというサービスで、還元額が100億円に達したら終了する、というものだったが、多くの人が一斉に群がったため、キャンペーンはわずか10日間で終了となった。
こう見ると、民間企業による派手なキャンペーンのようだが、キャッシュレス決済を強く推しているのは、実は政府である。経済産業省のキャッシュレス推進策には、2027年までにキャッシュレス決済比率を40%にまで高め、ゆくゆくは8割にまでもっていきたい、とある。それに乗ったキャッシュレス決済事業者が100社以上も仮登録を申請している、というのが今の状況だ。
こうしてキャッシュレス化の波は大きなうねりとなって私たちに押し寄せ始めたが、「新しい波にすんなり乗り切れない」と思う人も相当数いる。キャッシュレス決済に多くの人が抵抗感を抱き、なかなか進まないのはなぜか? 一般社団法人キャッシュレス推進協議会の鈴木麻友さんに聞いた。
「まず挙げられるのが、日本の通貨・貨幣に対する安心感です。他国に比べて、日本のお札は偽札が出回る率が低いですし、紙幣も清潔です。
また、現金を預けたり引き出したりするシステムが行き渡っていて、大手銀行・地方銀行などのATMは全国に約11万台設置されており、手軽にお金がおろせます。現状、現金を受け入れていない店舗は日本ではほぼないこともあって、日本人にとって現金は圧倒的に信頼性が高いのです」
なるほど、それなら無理にキャッシュレス化を進める必要はないように思える。にもかかわらず政府が推し進める背景には、大別して2つの事情があるという。
「1つは、インバウンド(外国人が訪日し旅行すること)消費の拡大です。今年はラグビーワールドカップが、来年はオリンピック・パラリンピックが、2025年には万博が開かれます。ここ数年で大挙して訪れる外国人観光客の消費活動を活発化するためにもキャッシュレス決済の普及が待たれるのです」(鈴木さん・以下同)
たしかに、海外旅行時は、慣れない通貨や貨幣を使うより、クレジットカード等で済ませられればストレスも少なく、消費量も増えるだろう。