老後の生活において、「都会暮らし」か「田舎暮らし」か、どちらを選ぶかで大きな差が出てくる。都会で忙しく過ごしてきた人は、夫の退職金を利用して、気候がよく、広い家でのんびりと田舎暮らしをしたいと考える人もいる。だが、何も考えずに田舎暮らしを始めると痛い目にあう。64才主婦・金井さん(仮名)が話す。
「都心にアクセスのよいベッドタウンで、建て売りの小さな一戸建てに住んでいました。子供2人も独立し、夫が定年退職したのを機に、田舎の広い家に移り、趣味の園芸を楽しみながらゆっくり暮らしたいと考えました。そして2年前、家を売ったお金で、思い切って神奈川の湘南に家を購入。海の見える街で、地価が安い分、これまでより広い家で、憧れの田舎暮らしを始めました。
でも、引っ越してすぐに夫ががんを患い、現在は病院と自宅を行ったり来たりする生活を送っています。自宅からバス停や駅までは歩いて35分、運行本数も限られるうえ、車の免許も持っていないため、病院に通うのに往復2時間かかります。スーパーに行くにも40分はかかります。頻繁にタクシーを使うわけにもいきません。今では考えが甘かったと、後悔しています」
憧れの田舎暮らしのはずが、まさかこんな事態になろうとは…。実際のところ、「田舎」と「都会」、どちらで暮らすのがよいのか。介護ジャーナリストでオールアバウトガイドの小山朝子さんが話す。
「都会暮らしに慣れた人が地方で暮らすのは想像以上に大変です。夫婦のどちらかが病気になったり介護が必要になったりすれば、かえって苦労したり、お金がかかることも。たとえば、山間部や過疎地では大きな病院が遠かったり、介護ヘルパーが訪問する事業所が近くにない地域もある。都心部の家は売れることがあっても、地方の家は買い手が見つかりづらいでしょうから、相応の覚悟が必要です」