先日発表された5月の米雇用統計の結果は弱く、ドル安に振れると思われたが、1ドル=108円を大きく下回ることはなかった。その前にはパウエルFRB(米連邦準備理事会)議長の「米ドル利下げ示唆」の発言があったにもかかわらず、ドル/円がなかなか下落しない理由とは? 元インターバンクディーラーで外国為替ストラテジストの水上紀行さんが解説する。
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6月7日に発表された5月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が7.5万人と、予想の17.5万人を大きく下回りました。弱い指標結果を受け、市場の「FRB早期利下げへ」の期待は強まり、米雇用統計数値の発表直後から、海外投機筋などによるドル/円の売りが殺到しました。
ところが、ドル/円を猛烈に売っても売っても、価格の下押しを食い止める買いが執拗に湧いてきたため、ドル/円は思ったほど下がりませんでした。下落を阻んでいた買い手は、おそらく生保など日本の機関投資家と思われます。
日本の機関投資家の売買方針として、オープン外債(外債購入時に為替ヘッジをかけない外債投資)のためのドル買いは、為替リスクを鑑み、相場が下がったときに限り買うというのが原則です。今回の米雇用統計発表時のような弱気ムードで、日本の機関投資家が買っていたなら、相当の勇気と懐の深さが必要とされたでしょう。
そして、彼らは買った水準から2~3円も上がればしっかり利食いをする、という取引をしていると思われ、その影響もあってかドル/円はここ数年レンジ相場が続いています。
ドル/円の月足チャートを見ると、2017年の2月からレンジ相場が続いており、2017年1月にトランプ大統領が就任した翌月から、1ドル=約105~115円の値幅で推移しています。トランプ大統領就任以降、誰かの思惑により、過度な円安・円高に振れない相場を形成してきたようにも思えます。
まだまだ、レンジ相場は続くのかもしれません。
【PROFILE】水上紀行(みずかみ・のりゆき):バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀において為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。主著に『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』(すばる舎)、『FX常勝の公式20』(スタンダーズ)他多数。メールマガジン「水上紀行のFXマーケットフォーカスト」配信中。ツイッター@mizukamistaff