参院選前に飛び出した金融庁の「年金2000万円不足」報告書をめぐり政府・与党はパニック状態だ。
事実上の金融庁トップである麻生太郎・財務相兼金融担当相は「報告書は受け取らない」と拒否し、自民党の森山裕・国対委員長は「政府は受け取らないと決断したから報告書はもうない」と言ってのけた。ここまで慌てるのには理由がある。
今年は5年に1度の「財政検証」が行なわれ、深刻化する年金財政を補うべく新たな給付削減策や保険料増額策が議論される。そうした改革が行なわれれば年金生活世帯の生活費不足は報告書の2000万円をはるかに超えることが予想される。
安倍政権は12年前に「消えた年金」問題で参院選に大敗したトラウマがあるだけに、報告書を“なかったこと”にし、財政検証の公表も先送りして年金の不都合な真実から国民の目をそらしたい。
そこで政府は批判をかわすためになんと「年金を増やす」と言い出した。
6月11日発表の「経済財政の基本方針(骨太の方針)」で、働く高齢者の年金を減額する「在職老齢年金制度」の“廃止”を打ち出したのだ。
現在、60~64歳までは月給と年金の合計収入が28万円、65歳以上は47万円を超えると働き続ける限り年金がカット(支給停止)される。この在職老齢年金の仕組みによって、年金を減らされている人は約124万人にのぼり、毎年約1.1兆円もの年金が支給停止されている。それを廃止し、“いくら稼いでも年金を減額せずに満額受け取れるようにします”というのである。
実現すればすでに年金をもらいながら働いている世代やこれから年金を受給する世代には年金アップの滅多にないチャンスだ。
だが、選挙前には年金改革の「おいしいメニュー」だけを示しておいて、選挙が終われば、年金支給開始年齢の引き上げ、70歳以上やパート主婦への年金保険料徴収拡大、サラリーマンの妻の3号被保険者制度の縮小など「苦いメニュー」ばかり並ぶことが予想される。
それならなおのこと、働くシニア世代は在職老齢年金廃止を最大限に利用して年金を満額もらい、その後の年金改悪に備える必要があるだろう。
※週刊ポスト2019年6月28日号