これから定年や年金受給を迎える世代の老後資産形成を揺るがしているのが政府の「働き方改革」だ。
「過労死ゼロ」をスローガンに導入された残業規制では、手取り収入の大幅ダウンで住宅ローン破産が大きな問題になりつつある。経済アナリスト・森永卓郎氏が語る。
「日本の賃金体系は大企業でも基本給を低く抑え、残業代とボーナスで稼ぐしかない。ところが、政府は過労死を防ぐという理由で、法律で残業時間の上限を厳しくした。企業にすれば、“働き方改革”を口実に残業代をカットできるわけだから、実質的な賃下げです。残業代を織り込んで家計の資金計画を立てていたサラリーマンが住宅ローンの返済に困るのは最初からわかっていたはずです」
定年や年金受給を控えた世代は、老後資金計画の大幅な見直しを迫られている。社会保険労務士・稲毛由佳氏のアドバイスだ。
「残業規制はこれからが本番なので、早めに返済計画を見直したほうがいい。住宅ローンを定年の60歳や65歳までに完済する予定であれば、5年ほど返済を延ばして月々の返済額を減らす。
また、住宅ローンの利率は非常に低くなっているので、金利が高かった時代に住宅を購入した人であれば、借り換えで返済額を減らすことができます。それでも無理そうだと思えば、貯金を崩して返済するより、中古マンション相場が高い今のうちに売却して残債をなくし、生活をダウンサイジングして賃貸に住み替える決断もあります」
自宅を売却しても、「老後資産」を守ることを優先する判断だ。
※週刊ポスト2019年7月12日号