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監督のサインを見た少年は野球との決別を決意した 勝利至上主義が残した心の傷

なぜ野球少年は打席で涙を流し、そして野球を辞めたのか

なぜ野球少年は打席で涙を流し、そして野球を辞めたのか

 現在、甲子園球場で第101回全国高校野球選手権が開催中。高校球児が連日熱戦を繰り広げている。スポーツはもちろん「勝ってナンボ」の世界だが、勝利至上主義が行き過ぎると、時に傷つくのは選手。それは身体の傷だけではないだろう。現在40代の男性Nさんは中学生時代、野球部の監督から思いもよらぬ指令を受け、そのことは今も心の傷として残っているという。

 Nさんは現在、国立大学で研究職に就く学究肌の人物だが、子供の頃は野球選手を夢見るスポーツ少年だった。小学校でも中学でも当然のように野球部を選択。当時は第二次ベビーブームのどまんなかで、野球部はやたらと部員が多く、下級生はもっぱら球拾いだったが、Nさんが部活を辞めることはなかった。

 本当は投手をやりたかったものの、背の低さを理由に投手はやらせてもらなかったNさん。それでも中学3年生になると、内野手として試合に出られるようになり、頭角を現し始めていたが、中学最後の大会で野球を辞めることになる。Nさんがいう。

「中3の秋に行われた大会でのことです。その試合に勝てばより大きな大会に出られる大事な試合でしたが、後にプロに進んだ相手チームの投手に手も足も出ず、確か2点差か3点差で負けていました。そして最終回の攻撃もポンポンと2アウトになり、ランナーなしの場面で私に打順が回ってきました」(Nさん。以下「」内同)

 Nさんがアウトになれば試合は終了。Nさんの学年は引退となる。誰もが固唾を飲んで試合の行く末を見守る場面だったが、監督が出したサインは意外なものだった。

「打席に向かう際、監督を見つめると、監督がポンポンと2回手を叩きました。ウチのチームには色々な複雑なサインがありましたが、バントは非常に単純で、同じ動作を2度繰り返すとバントでした。私はサイン間違いかと思いましたが、監督と目が合うと、監督の口は『バ・ン・ト』と言っています。打たせてもらえないのが悔しくて打席でポロポロと涙が出てきましたが、指示通りバントをしてアウトになり、ゲームセットになりました」

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